失踪

学校と塾が終わって家に帰ってくると
夜はかなり更けていた。

柊先生と星川さんのことは、
考えない方がいいんだろう。

それでも、考えてしまう。
あの人たちに関われば、
綾にまた会えるのではないかと思ってしまう。

諦めていた……
諦めていると思っていた……
でも、諦めていなかった。

会いたい。
大切な友達に、もう一度会いたい。

……どうすればいい?
制服姿のままベッドに寝転がり、
天井を見つめながら
私は考えていた。

勉強机の上で充電中のケータイが震えた。
メールが来たのだろう。
普段は、ケータイが手元にないときは
メールは見ないことにしている。

……付き合いきれないからだ。
友達でもない人と、延々、延々
他愛もないやりとりをするのは……
私の性に合わない。

そのまま放っておくと
ケータイは着信音を奏で始めた。
メールの主が電話してきたのか。

そんなしつこい知り合い、いたかな?
それとも、私だけ助かったことで
一時的に興味を持たれちゃってるだけなのかな。

電話が鳴ったら、さすがに出ないわけにはいかない。
私は仕方なく、ベッドから降りて
机の上のケータイを手に取った。

液晶画面に表示されているのは知らない番号。

――嫌がらせ?

瞬時にそう思った。
でもまだ、一度もそういうことはされていないし
最初から決めつけるのは良くない。

とりあえず、出てみることにした。

「あ、良かった間に合った!
 華菜ちゃん華菜ちゃん、早く逃げて!
 そこ危ない!!」
電話をしてきたのは、星川さんだった。
どうやって私の電話番号を入手したのかは、
なんとなく想像が付く。

「……冗談は学校だけにしてくれる?」
私は低い声で言った。
低い声で話すと、案外、相手は
“機嫌を損ねた”と思い込んで
話を早く切り上げてくれるものだ。

「冗談の電話なんか掛けるかい!
 とにかく、その部屋から出て
 30分ぐらいは別の部屋で大人しくしてて!」
「……はぁ?」
「ああ、隣の部屋は駄目!
 もうちょっと遠い部屋! ほら、早く」

まるで、うちの間取りを知っているかのような口ぶりだ。
これは、悪質なイタズラだ……。

「ちょ、やばいやばいやばい!
 柊、この優男! 真面目に仕事しろや!!」
しかも、柊先生と一緒にいるのか。
こんな時間に。

「あー、もう!
 とにかく、そこから離れ――」


「…………。
 星川さん、穴が……」

目の前に広がる黒い何かは、
“穴”にしか見えなかった。
触れたら吸い込まれそうな気がする、深い穴。

「逃げて! さらわれるよ!!」

……さらわれる?
誰が?

まさか、私?


  • 最終更新:2012-03-26 22:51:52

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