第3章雑談:綾

「わ、私と話してどうするのよ。
 いっつも話してるじゃない」

「でも、やっぱり
 話し相手は綾が落ち着くなぁって」

「まったく……しょうがないんだから」


ここの皆さんのこと

柊さんのこと

「うーん、ごめん。
 会ったばかりだから、
 どんな人なのかは、想像しかできないや」

「それもそうか」

「でも、あの人……なんか無理してるよね。
 持病でもあるのかな」

「前から思ってたんだけど、
 綾って、なんでそういうの、わかるの?」

「へ? 普通、気づかない?」

「私、全然気づかないよ?
 鈍いのかなぁ」

「あー、私さ! 家族多いじゃん?
 姉弟は妹ふたり弟ふたりだし。
 環境とかも、あるんじゃないかな」

「私、一人っ子だもんなぁ」

「柊さんも、一人っ子かなぁ」

「え? なんでそんなのわかるの?」

「こう、無意識に誰かを
 意識してる雰囲気がない気がした。
 一言で言うと無防備っていうか」

「柊さんって、無防備なの?
 近寄りにくいオーラを放ってる気が
 するんだけど……」

「うん、放ってるね。
 周囲のこと、警戒しまくりだね。
 仕事のせいかもしれないけど。

 私が言ってるのは
 そういう普段の雰囲気のことじゃなくて
 話してるときとかの雰囲気」

「仲間を信じてるんだろうね。
 あれは、心を開きすぎ。
 4人の時なら、それでもいいのかも
 しれないけど。
 私と華菜がいるのに、
 不用心な発言が多かったよ?」

「そ、そうなの……?」

「うん。注意が足りないね」

「それって、一人っ子と関係あるの?」

「いや、根拠はないけど。
 私の……経験からの予想?

 一人っ子でも、全然隙が無い人もいるしさ」

うーん、ただの仕草で家族構成がばれるなんて
たまったもんじゃないぞ。

いやいや、綾の予想以前に、
ずっとここの人達に見られてた訳だから
それを気にするのも今更って感じもあるけど。

……ん? そうでもないなぁ。
見たことがあるわけでもないのに、
勘で当てられちゃう方が、逆に、怖くない?

うーん……。

「どうしたの、変な顔して」

「ああ、ごめん。なんでもない」


空山さんのこと

「……苦労してるんだろうなぁ」

「私には、一番苦労って言葉が
 似合わない人に見えるけど」

「うん、そう見えてる方が良いんだと思う。
 きっとあの人も、それを望んでる」

「でもね、考えてもみなよ?
 
 あの人、柊さんが帰ってくるまで、
 女ふたり男ひとりの構成で
 何の問題もなくやってたんだよ?
 私と華菜も入れたら、女4人と男ひとりだよ?」

うわ、それって
冷静に考えるとすごい比率だ……!!

「そんな状況で、
 トラブルがひとつもないって……。
 ああ見えて、かなりきっちりしてるって
 ことなんじゃないかな」

「と、トラブル?」

「あ、今えっちなこと考えてたでしょ?」

「考えてないっ!」

「そういうのじゃなくて。
 男と女が気持ちよく組むこと自体が
 案外難しかったりする。
 距離の取り方とか」

「へぇ、そうなんだ?」

「考え方のテンポが違うからね。
 でもまぁ、あまりにも忙しくなると
 相手の性別のことなんて
 気にしてる暇も無くなるから、
 大丈夫なのかな」

「綾にも、そんなことってあったの?」

「うん、バスケ部の試合前の練習と
 保健委員の仕事と、
 文化祭の実行委員の仕事が被ったときにさ。
 掛け持ちのきつさが半端無くて
 相手が人間にしか見えなかった」

「なんで、そんなに引き受けるかなぁ」

私には理解しがたい行動だ。

「どれも面白そうだったから。
 時期が被ってるのは、きついかな、って
 思ったけど……好奇心が勝っちゃって」

「ふぅん」

「空山さんの忙しさは、私のとは
 比べ物にならない……っていうのは
 よく分かってるけど、
 それでも、ちょっと親近感が湧くなぁ」


千春さんのこと

「面白いよね、あの人!」

「うん、綾と気が合いそう」

「うんうん。すっごく気が合う気がする」

「やっぱり」

「でもね。
 なんか、距離を置かれてる気がするんだ」

「……そうなの?」

「視線を感じて振り返ったら、
 勝手に焦り出したりとか、
 それを隠そうとしたりとか。

 私、どこか変なのかな?」

「さぁ……それは、どうなんだろ」


千秋さんのこと

「出来る女、って感じだよね。
 ちょっと憧れちゃう。
 ……華菜も将来は、
 あんな感じになるかもよ?」

「へ!? そ、そうかな……」

「私みたいな、騒がしいタイプには
 よく分からないところも
 たくさんあるんだけど……。
 まず、“出来る”ってのが羨ましいな」

「千秋さんはともかく、
 私のは羨ましがられるほどのものでも」

「出来ない側からは、同じように見えるんだよ」

「そんなこと言われても……」

「正直、千秋さんの第一印象は、
 頑張って軽い性格のふりをしてる
 実は真面目な人……だったから、
 華菜と似てるなー、って思って
 憧れより先に親近感が湧いて
 すぐに仲良しになれたと思うんだけどね。

 ありがと、華菜」

「……私、何もしてないよ?」

「もし、私が華菜を知らなかったら……
 千秋さんのことは
 “よく分からない人”止まりで、
 それ以上知ろうとは、思わなかったと思う。

 私が千秋さんと仲良くできるのは、
 先に華菜を知っていたお陰」

「それって、お礼を言うほどのこと?」

「私にとってはね」


私のこと

「……私、絶対に許さない。
 華菜が死ぬなんて」

「それを変えようと、
 みんなが頑張ってくれてるんだし、
 私も頑張ろうと思ってるし。
 綾が気にする事じゃないと思うなぁ」

「だからこそ、気になるんだよ」

「そ、その気持ちも分かるけど……」

「違う世界の悲劇だったとしても。
 似たような現象がこっちでも起きてる以上、
 無視できないと思う」

「私は……
 華菜を死なせたり、しない。
 守ってみせるよ、絶対に」


自分のこと

「え、今更!?」

「変かな……。
 私は、綾と再会して、
 色々な気持ちを再確認したんだけど……」

「あ、ああ。そういう話か。
 私もきっと、同じだよ。
 華菜が来てくれたから、
 私は今、安心してここにいられる」

「えーっと、それって
 千秋さんの嘘だったんじゃあ……」

「それは“存在の安定”の方。
 今私が言ったのは“安心”の話。

 流石に……会ったばかりの人4人と
 何か頑張ろう…って気には
 なかなかなれないよ」

「私の傍には、
 いつものように華菜がいてくれる。

 だから私も、
 ここにいる皆さんのこと、
 考えられるようになってきたんだ」

「そ、そうなんだ……」

「私も、いつか……
 あの人達の仲間に、なれるかな?」


他の話をする

再会できたこと

「ほんと、嬉しいよね。
 何度喜んだって、罰は当たらないよね」

「……うん」

「でも、華菜には悪いことしちゃったね」

「……え?」

「私は、華菜が来るって知ってた。
 でも……華菜は、
 私にまた会えるかどうか……
 知らなかったじゃない」

「それは、お互い同じなんじゃ……」

「信じ込んでた分、私の方がましだよ。
 私は、そう思う」

「そ、そう……?」

綾は、いつも前向きで。
そんなところが、私は羨ましい……。

元の世界のこと

「元の世界も気になるんだけどさ、
 今は今で結構おもしろくない?」

「そ、そう……?」

「うん、いかにも“非日常”って感じで。
 学生って、同じような日々を
 繰り返すだけじゃん。
 だから、こういうのも悪くないかなって」

「そ、そうかな……」

「あれ?
 華菜は違う? 早く帰りたい?」

「それは…よく分からないんだけど……。
 ここを、綾ほど気に入ってはいないのは
 今ので良く分かった」

「そっかぁ、残念だな」

「あ、でもそれは、
 綾より少し遅く来たからかも!
 私も、もう少しここにいたら、
 気持ちが変わるかも知れないよ」

「それもそうだね。
 どっちにしろ、こんなに堂々と
 勉強さぼれる機会もあんまりないし。

 たまには家族と離れて暮らすのも
 悪くないかなーって思う」

「ちょっとちょっと、慣れすぎ。
 おばさん達が可哀想だよ。
 本当に、心配してたよ?」

「でもさぁ、どうせ失踪する私だよ?
 今も、歴史通りに私が
 あの世界から消えただけ。

 そういう考え方は、できない?」

「綾は……帰りたく、ないの?」

「わかんない。
 多分、帰りたいんだと思う。
 でも……“帰らなきゃ”っていう
 焦りは無いかな」

「そうなんだ……」

「あのさ、
 私がいつか誰かと結婚したら
 家を出るし、妹たちだってそう」

「う……考えたこともなかった」

「その後も、
 話したり出会ったりするだろうし、
 血の繋がりは消えない。
 絆は消えないよ。
 でも、家族と同じ空間で過ごすのは
 永遠ではない。……私は、そう思う」

「へ、へぇ~」

この世界も実感の湧かない世界だけど
綾も、時々……よく分かんないこと、言うなぁ。
家族と離ればなれになる時のことなんか……
私、考えたこともなかったな。


この世界のこと

「びっくりだよね。
 ちょっとした未来だし、別世界だし」

「……うん、そうだよね」

「でも、だんだん慣れてきた。
 この世界も、いいかなって思う」

「“いい”?」

「皆さんと別れがたいというか。
 できれば、ずっと
 友達でいたいかな……って」

「あぁ……」

「でも…でも、いつか選ばないと
 いけないんだよね……私たちは」

「……え?」

「私も、華菜も、みんなも。
 生きるのか死ぬのか、
 逃げるのか逃げないのか、
 どこで生きていくのか……
 いつか選ばないといけない。

 私たちは、別の世界の人間だもの」

「……あ、そうか…」

「選ばなくていい方法……
 ないのかな……。
 選びたく、ないな…」


服のこと

「うん? これのこと?
 この、千秋さんの制服?」

「……うん」

「可愛いよね!
 スカート丈が、ちょっと長いけど」

「そんな贅沢な」

「だから、言ってないじゃん。
 うちの学校も
 ブレザーだったら良かったのに」

「そんなに気に入ったの?」

「セーラー服って、
 襟の重なってる部分が暑いでしょ?
 ……冬でも。
 ブレザーだと、
 暑いときは脱げばいいし、楽でいいよ」

「そうなんだ……」


お手伝いのこと

「綾って、自分から言い出して
 ここのお手伝いを始めたんだよね?」

「そうだよ?」

「どうして?
 バイトに行くのも
 面倒くさがってる綾が
 自分から仕事が欲しいだなんて……」


「好き放題言ってくれるねぇ」

「ご、ごめん」

「もちろん、気にしてないけど。

 お仕事の手伝いを
 させてもらうことにしたのはね、
 訳の分からない現実を忘れるため。
 混乱しないためだよ」

「まぁ、本当は私なんて
 役に立ってないのかもしれないけど……。

 人間、“やるべき事”があると
 辛いことを、
 その間だけでも、考えずに済むからさ」

「だから、
 私のわがままを聞いてくれた人達に
 すごく感謝してる」


アリッサムって知ってる?

「ねぇ、綾……
 “ありっさむ”って知ってる?」

「え? 知ってるよ。
 どこにでも咲いてるじゃん」

「え、そうなの!?」

「……うん。
 その辺にあるやつだと、
 手入れされてないから伸び放題だね」

「…ざ、雑草……?」

「あとは、花壇の縁に植えてあったりとか。
 かわいいよね~」

「そ、それを先に言ってよ!!
 ……びっくりしたぁ」

「私は、華菜にびっくりしてるけど。
 いきなり花の話なんか始めるし、
 それを聞いて赤くなったり、焦ったり」

「……し、してない!」

「してたよ?」

「してないったら!」


  • 最終更新:2012-04-11 10:05:05

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