“偶然”

「まさか、無人島だと思ってた島が
 海賊の根城だったなんて。
 とんでもないところに
 飛ばしてくれたねぇ、華菜」

「わ、悪かったね!!」

「いや、もちろん冗談だけどさ。
 柊さんと空山さんが
 みんなぶっ飛ばしてくれたし」

「あんなに強いなんて、知らなかったね」

「いやぁ、何が凄いって
 全員を相手にしようと思わないところだね」

「全員相手にしてたら、きっと負けてたよ」

「統率の取れた組織も、
 無法者の集団も……
 トップを押さえれば
 動きが止められるっていうのは
 本当だったんだねぇ」



「おい、そこの女ども!!
 何やってる!?」
少し遠くから、大きな声が聞こえてくる。

「げ。 まさか、海賊の残党……?
 逃げようっ!!」

私たちは、怒鳴り声に驚いてしまって、
相手が誰なのか確認しようともせず、
ただ走った……。

「あーっ、こら、待て!
 逃げるってこたぁ、
 まさか、お前らも海賊の残党かー!?」

「は、はぁー!? 違いますけどっ!!」
「違うなら何故逃げる!」

「あなたが追いかけてくるからー!」
「あたしゃ、別に人を襲ったりせんぞ」

「じゃあ何で追いかけてくるのよーっ!」
「人を捜しとるんじゃー!!」

「ここは海賊以外は誰もいない
 無人島ですけどー!」
「じゃあ、やっぱりお前らも海賊かー!!
 海賊なら容赦はせんぞー!」

「ちーがーいーまーすー!」

綾が、なんか不毛な会話をしてる。
走るのにも疲れてきたし、
何より……相手は女の人みたいだし、
足を止めてみようか。

「お? ひとり止まったな?」

「ちょっと華菜、何やって……
 って、女の子!?」

「そうだよ。
 私も、最初はびっくりして
 気づかなかったけど……
 女の人の声だったんだよ」

私たちを追いかけて来ていたのは
私たちと同じくらいの年頃の……
女の人だった。

「女が悪いか!?
 女の海賊だっているぞ!」

「ええと、じゃあ、貴女が海賊……」
「んな訳あるか!」

ああ、もう。
このふたり、相性悪そう……。

「ええと、初めまして。
 私は時丘 華菜といいます」
私は、女の人に自己紹介をした。

「お、おう? カカナっていうのか」
「華菜、です」

「カナか。面白い名前だなぁ、はっはっは」
「面白いって、そんな……」

「あたしも面白い名前なんだわ。
 ソラヤ マナツミとかいう。
 マナツミなんて発音しづらい名前、
 誰も呼ばないから、
 みんなあたしのことは“マナ”って呼ぶよ」

「そうなんですか……」

「そっちの姉ちゃんは、何て言うんだ?」

「え、私!?
 私は、中井 綾だけど……」
「カイアか。良い名前だな」

「どういう聞き取り方してるのよ!
 わざとですよね、それ!?」

「なんか、おかしなこと言ったか?
 あたしの知り合いは、
 みーんなそんな名前だが?」

「綾、綾……ここは穏便に行こう?
 頼りになる人達も、今はここにいないし……」
「うー、なんか悔しい」

「この人の名前は綾といいます」
「“アヤ”か。変な名前だな」

「さっきから、人の名前を
 面白いとか変とか、好き放題言ってない!?」
「まぁ、まぁ……
 そういう地域なのかも知れないし」

「でも、日本語通じてるじゃん!?」
「そういう日本、なのかもよ?」
「う~ん……」

「ところでマナさん、
 誰を捜しているんですか?」

「海賊を追っ払ってくれた恩人さ!
 白い服を着た兄ちゃんだって聞いてるけど。
 礼を言いたいのに見かけないから
 多分この島にいるんだろうな~と思ったけど
 海賊の残りが襲ってきたら怖いってんで
 誰も近づこうともしない。
 お礼を言いたいのか怖いのか、
 はっきりしろってんの」

「それで、どなたかの代わりに
 お礼を言いに来てくれたんですか」
「そうだ。村のみんなの代わりに。
 あんた、知り合いなんか?」

「はい、知り合いです。案内しますよ」

「そうか、そうか!
 カカナは話の分かるやつだな!」
「だから、“華菜”ですって」

「そうだった。カナだったな」

明るくて元気なマナさんは、
なんだかちょっと不思議な人だけど……
何故か、親近感が湧いた。

そんな突然の出会いだったから、
私達はすぐには気づかなかった……。

だが、もう気づいている人もいるだろう。

この女性……
“ソラヤ マナツミ”の正体は……
この女性の本当の名前は。

空山 夏美。

捜しても捜しても見つからなかった、
空山さんの妹さんだ。


「そんでさ、空がピカァっと
 光って、おとうとおかあの前に
 小さい子供が現れたんだと。
 それが、あたしだ。

 子供が生まれなくて、
 もう諦めてたふたりには、
 それは嬉しい出来事でさ……
 あたしは、ここの子になった訳だ」

「その時、あたしは変な札をぶら下げてた
 らしいんだが、多分それはあたしの名前だ。
 ヒラガナで、“ソラヤ マナツミ”って
 書いてあったんだ」

「…………!」

「なぁ、茂」
「……いや、いい」

「おとう達にせっかく助けてもらったんだ、
 役に立たないと恩が返せないだろ。
 だから、あたしは漁もやるし、
 武術の稽古もやるよ。料理だってやる。
 なんだってやるさ」

ぶ、武術って……。
さっき、綾と喧嘩にならなくて良かった……。


「ははは、君はまるで超人だな。
 ひとりでそんなに
 たくさんのことが出来るのか」

「でも、あたしがふたりいても
 海賊は追っ払えなかったと思う。
 男の力は、やっぱすげぇな!」

「普通は、男がふたりいても
 海賊に囲まれたら負けちゃいますよう。
 よい子は真似しちゃ駄目だからね~」

「違いねぇ、ははは」

「おかあは、いつか本物の親が
 あたしを迎えに来るかも、って言ってるが
 そんなことは無いと思う。
 だったら最初から、人に預けたりしねぇよ」

「預けるしかなかった、
 どうにもならない事情があった
 ……という可能性もあるが」

「そうだとしても、
 あたしを育てたのは、あの人達だ。
 代わりの親なんか、
 たとえ本物でも……いらねぇ」

「……そんなことを、軽々しく
 言うものではないぞ」

「いや、いいんじゃねーの?
 実際……逃げてるんだし」

「茂……お前な」
「事実は事実だ」


夏美さんのことに気づいても
空山さんが……
それを明かそうとすることはなかった。

知らない方が、幸せだろう、と言って。


「しっかし、暑そうな服を着てるなぁ。
 妙ちくりんだし。
 うちにきたら、もっとましなのを
 貸してやるけど?」

「ホント!?
 実は暑くて死にそうだったんだ~、
 お言葉に甘えちゃおっかな!」

「しかし、あたしの小舟に
 7人も乗れるかなァ……
 それだけは心配だな」

「別に、一度に全員運ぶ必要は無いんじゃない?」

「それもそうだな! ははは!」


夏美さんのいる世界に飛んできたのは
本当にただの偶然なのだけど……
みんな無事で、本当に……良かった。


  • 最終更新:2012-04-11 09:26:18

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