ひとつの未来

1

「……ここにいるのは、
 千春、千秋と茂だけだというのは
 本当なのか?」

「だーかーら、そうだって言ったじゃん」
千春さんが大きなため息をついた。

「あー、やっぱ見るまで実感無かった?」
空山さんもため息をつく。

ふたりにつられたのか、
千秋さんまでため息をついた。

「その通りです。
 ここにいるのは、綾ちゃん華菜ちゃんと
 私たち4人だけ。残りはみーんな移住完了しました。
 あちらの計画は順調に進んでいるんでしょうね」
少し皮肉っぽい口調で説明する千秋さん。

「まさか、そんなはずは……」
柊さんは、驚きが隠せない様子だ。

「いなかったお前が知らないのも
 納得行かないのも無理はないと思うぜ。
 だから、驚くのは構わないがこれが現実だ」

「ありえないだろう!?
 そんな非人道的な計画が、許されるわけが……」

「怒鳴るなら、俺じゃなくて
 大統領を怒鳴れ。ま、ここにはいないけどな」

あ、こっちの日本は大統領制なんだ。
もしかして、何かを変えようとした未来の人が
政治を大きく動かしたのかな。

「……ということは…………。
 お前達は、見捨てられたのか……?
 あれほどまでに、人に尽くしたお前達が?」

「お前もだよ。
 っていうか、一番働いてた奴に言われると、
 俺の立場が無いんスけど」
空山さんはやれやれと言いながら、
またため息をついた。

「いや、俺は……死んだことになってるはずだ。
 1年以上連絡がつかない者は
 死亡者として扱われるのだから」
なんか、大変なことをさらりと言っている
柊さん。
うん、もう慣れてきた。
この変な流れに、なんか慣れてきたぞ。

「そう。死んだことになってる。
 でも、ここにいる仲間は誰一人、
 そうは思ってない。だからお前も一緒だ」

何があったんだろう。
みんなは、何に見捨てられたんだろう?

「というか、
 お前が行方不明になったのをいいことに
 見捨られてやる交換条件として
 この基地を貰ったんだよ。
 という訳で、ここを私物化して
 好き放題やってんだ。ここ3年ほど」

「3年? ……ということは
 俺が死んだことになったのと同時期に
 あの計画は実行に移されたのか」

「おう」

ええっと、つまり……柊さんは、4年前に
ここから姿を消したのかな?

「あの……。私たち、離席した方がいいですよね?
 行こっか、華菜」
重要そうな内容の話だと悟った綾が言い出した。

確かに、そうだ。
つい興味が勝ってしまって
話を聞いてしまっていたけど
きっとこれは……
私たちは聞いちゃいけない話だろう。

綾に手を引かれ、私も退室しようとした。

「何言ってるの!
 アンタらがメインなんだって。
 話の意味は、すぐには分からないかもだけど、
 とりあえず座っといてよ」

出て行こうとする綾の両肩を
がしっと掴み、止める千春さん。
その後、私の方を見て、
“行くな”と言いたげな視線を送ってくる。

「でも……なんか、深い事情がありそうですし」
綾はかなり戸惑っている。

「お世話になってるんだから、
 とりあえず言うこと聞いておこうよ」
そんな綾を、私が引き留めた。
なにより、私も続きが気になる。

千春さんは、学校でも、ここでも
ことあるごとに
私たちのことを“メイン”と口走っている。
その理由は……
きっとこの話を聞けば分かるはずだ。

「グッジョブ、華菜ちゃん!」
千春さんが笑いかけてくれた。

いいえ、多分ただの利害一致です。
……言わないけど。


2

「こほん。えーっとまず、
 ここに私たち4人しかいない理由を
 華菜ちゃんと綾ちゃんに説明します」
わざとらしい咳払いをして、
千春さんが話し始める。

こういう時に変な敬語になるのは、
姉妹共通の癖らしい。

「進みすぎた文明は地球を滅ぼしました。
 滅んだ地球で4人も生活してるから
 説得力はないと思いますが
 実際地球は滅亡します。……来年ぐらいに」
淡々と語られる、この世界の現状。

信じて良いのかは分からないけれど、
そういうことになっている、というのは
理解した方が良い。

この人達は、そういうノリで
生きているのだから。

「助かるために、人類全員
 逃げましょうという話になりました。
 そこで、自分たちの持てる
 全ての科学力を持って“真っ新な世界”を
 創世し、そこに人類は移住しました」

「……本当に全員ですか?」
聞いてはいけないことかもしれない。
だが、気になった。

「……痛いとこ突くね」

「君の予想通り、
 この基地をもらえた俺たちは恵まれている方だ。
 政治家と富裕層以外だと……
 逃げられなかった人は、いる」

「そいつらは、どうした?」

「出来る限りここに連れてきて、
 こっそり向こうに送り込んだよ。
 いくつかの地域は、施設への浸水がひどくて
 もうどうにもならない状態だったけど。
 ……酷い話だよな」
空山さんの、大きなため息。

ああ、やっぱり。
ここでも同じようなことが起こっているんだ。

いつだって、お金持ちばかり大事にされる。
国を動かす力のない民間人にだって、
失いたくないものは……あるのに。
失えない存在はいるのに。

「あ、話の腰を折ってごめんなさい」
私が謝ると、千春さんはにっこりと笑った。

「アンタらが気になることを
 説明しようと思ってるんだから、
 いいんだよ。じゃ、続けるよ」

「……しかし! そんなこと言ったって
 こちらの滅びの瞬間に
 何が起こるかわかりません。
 真っ新な世界はタイムパラドックスによって
 発生したような、安定した世界ではないので
 結局一緒に滅ぶ、なんて可能性もあります」

「だから、見張り番が必要なのです。
 でも、滅びの瞬間を見ると言うことは
 当然その見張り番は死にます。
 つまり人類のために犠牲になれや、と
 命じられたのが我々4人なのです!」

「いや、自分たちから手を挙げたけどな」
空山さんが茶々を入れた。

「茶化すなー!
 どっちにしろ、事実でしょうが」
千春さんが少し怒る。

「うん、まぁ……全人類、
 この貧乏くじを引くのを嫌がってたから
 どっちの解釈でもいいんじゃないかな」
千秋さんが話をまとめる。

なんか、いいチームだなぁ。

「なぜそんなことを……」
柊さんが呟く。

「8割方お前のせいだな!」
空山さんがけらけらと笑った。

「!」
柊さんの顔色が悪くなる。

「……というのは半分以上冗談で、
 お前がいなくなったのを良いことに
 “自由に生きて、
 面白おかしく人生を終えよう”と
 決めたのさ、俺たちは。だから気にすんな」
空山さんが柊さんを肘で小突いた。

今のはちょっと、冗談になっていない気も……。


「自分の信念を貫くために
 いなくなっちゃったアンタが、
 正直ちょっと羨ましくってさぁ」

「じゃあ、それを応援して、
 自由な気分を味わってみようかなって
 私たちも思ったわけ。最後だって悪くない。
 死に方が選べるってのは、実は恵まれてるからな」

「私たちだったら、どんな理由があっても
 諦める気持ちが先に来て
 抜け出そうなんて……思えないからさ」
千春さんが笑う。
でも、いつもと違う笑みだ。
顔は笑っているけれど、どこか寂しげな……。

「俺のは……そんな立派なものじゃない。
 ただの勝手だ」
柊さんが目をそらした。

「それが出来る時点で、
 自由で羨ましいなって話をしてんだよ!」
空山さんが、柊さんの肩に腕を掛ける。

「そ、そうなの……か?」
「そうだよ。
 お前のお陰で、大変だけど
 そこそこ面白い気分だぜ」
「……は、はぁ」
柊さんは全く実感が湧かないようで。


「はいはーい。
 そろそろ話を戻しましょうね。
 大事なふたりがきょとーんとしてますよう」
千秋さんが手を叩いた。

「おっと、悪い」
空山さんは柊さんを放す。


「私たちしかここにいないのは、
 まぁ、そういう理由です。
 我々は尊い犠牲なのです」
千春さんが、話を元に戻した。

「ええっと……やっぱり、
 そのことと、私と華菜の関係が
 わからないんですけど……」
綾が困った顔で問う。
当然の疑問だ。
今の話と、私たちに接点はない。


「そこがポイントです!
 関係ありまくりなのです!」
力強い声で言う千春さん。

「どんな風に?」
「華菜ちゃんは柊の命の恩人なのです!
 5年後の華菜ちゃんだけど!」
千春さんの人差し指が、
私にビシィと向けられる。

「それって、パラレルワールドの私ですよね?」
ここにいる、今の私であるはずがない。

パラレルワールドが無限のように
増え続けるのならば
今の私の未来が分かるはずがないのだから。

「その通り!
 確かに別の華菜ちゃんです。
 頭がいいね、華菜ちゃん!!」
なぜか凄く褒められた。

「おい、待て、その話は……」
柊さんが、焦り始めた。

「はい、鈍感きたこれ。もう遅いです。
 続けまーす」
千春さんは楽しそうだ。


「おい、やめ……」
「若かりし日の柊は、それはもう無茶な奴でした。
 怖そうな顔からは想像できないかもだけど、
 目の前の人を助けるのにいつも必死で。
 帰還命令を無視した回数は
 両手では数え切れないほど!」

「足の指使っても足りないんじゃね?」
空山さんが片足をひょいと上げて、言う。

「足りないかも知れませんねー。
 いつも成功させてたから、
 処分もいつも軽めだったけど、
 あれが上層部のいけないところだと思うなー」
千秋さんも同じ意見のようだ。

「そういう、いつ死んでも
 おかしくないような働き方をしてました」
柊さんが、千春さんから目をそらす。

「で、実際死にかけます。
 とある雨の日に。
 時の境目をうっかり超えてしまい
 ある世界の2014年に放り出されました。
 そこが、“あったかもしれない”
 華菜ちゃんの未来の世界のひとつです」

……うん?
ということは、私は本来の予定よりも
5年も早く柊さんに会っちゃったのかな。

「最前線の人間は時に飲まれるのが仕事です。
 さらわれないように注意しながらも
 常に時に飲まれております。

 だから体力もアホのようにあるし
 普通なら境目を超えて世界に放り出されても
 その世界の未来の世界を増やしてしまうくらいで
 本人が死にかけたりはしません。
 めっちゃめちゃ疲れるくらい」

そういえば、あの時、
空山さんもかなり疲れていた。

「あ、もしかして……」
私が柊さんの方を向くと、
ふいと顔を背けられてしまった。
私の想像は当たっているようだ。

「当てる自信、ある?」
千春さんの挑戦を、受けてみることにした。
簡単な答えのはずだ。

「その時、働き過ぎの柊さんには
 耐えきる体力がなかった?」
「大当たり!! いや、問題が簡単すぎたかな。
 んで、雨の中ぶっ倒れている柊を見つけて
 救急車を呼んで命を救った。
 それがとある未来の華菜ちゃんなのです」

「ふたりは当然初対面。
 19歳のアホ柊と
 22歳の可憐な女性の出会いです」
楽しそうな千春さんとは真逆に、
自分の失態をばらされた柊さんは
かなり落ち込んでいるように見える。


私たちの接点は分かった。
確かに、命の恩人ならば……
ただの他人ではないだろう。

でも、それと今こうなっていることに、
何の関係があるのかな。


3

「この先の話は、千春のテンションで
 やるのはどうかと思うけど」
空山さんが言う。

「えー? さすがに真面目に話すよ?
 あれを楽しいと思える人間は
 いないでしょ」
千春さんがそう言うと、
空山さんは千秋さんの方を見た。

しかし千秋さんは首を横に振り、
話を続けるのは
千春さんのままでいいという意思を示す。


「まぁ、それでいいのなら」
空山さんは不満そうだが、
自分が説明する自信もないらしい。


「華菜ちゃん、綾ちゃん」
千春さんが、私の目を見つめる。
……綾の顔も。

「多分、凄く嫌な気分になると思うけど
 許してね?」
「…………?」
私には、その前置きの意味が分からなかった。

「よくわからないので、続けてください」
綾が続きを促す。

「…………」
千春さんは少し黙った後、語り始めた。

あるかもしれない、
実際、どこかではあった……
私たちの事件を。


「回復した柊は、普通に仕事に戻ってきた。
 いくつか道具を無くしてたけど、
 そんなの報告して申請すればまた貰えるし、
 復帰するのには問題ないくらい
 健康な姿で戻ってきてくれたのが嬉しかった」
 
「でも、その2ヶ月後……
 この基地にある悪趣味な届け物が来た。
 本当に、あれは酷いと思う」

「届いた大きな箱の中には

 冷たくなった、
 もう目を覚まさない
 華菜ちゃんと一輪の菊の花。

 それと一枚の紙が入ってた」

……え?
冷たい?
目を、覚まさない?

…………未来の、私が?
まだ22歳の私が?
死ぬにはちょっと、早くない?


「添えられていた紙には
 こう書かれてた。
 『柊、お前がこの女性を殺したんだ』って」

殺した……
つまり、私が殺された?


私が動揺していると、
綾がそっと、肩に手を掛けてくれた。

「勿論、柊はそんなことはしてないし
 華菜ちゃんと何があったのかは
 知らないけど、無茶は控えるようになってた」

「私たちは、会ったこともない、
 そして永遠に会うことも無いであろう
 華菜ちゃんのことも
 仲間のように感じていた」
千春さんの声が遠くなっていく。
ああ、私は今……話を冷静に聞けていないな。

向き合わなきゃ。
現実と向き合わなきゃ。


「仕事の合間に、柊は勿論……
 私らも、調べた。とにかく調べた。
 華菜ちゃんに何があったのか……。
 そして、突き止めた」

「…………」
そこで千春さんは、黙り込んでしまって。

「あの……」
しばらく待ってから、
私は続きが知りたいという意思を示した。

「その世界でも、綾ちゃんは失踪する。
 失踪した綾ちゃんを捜している華菜ちゃんが
 時にさらわれ、放り出され、落ちた先の世界は……」

「そこは……あの…、その……。
 ……この世界の地表。
 人が生きることの出来ない汚染された地」

「それを何者かが回収し
 柊への嫌がらせとして……送りつけてきた。
 そんな……話」
千春さんの声は暗かった。
死ぬのは私のはずなのに、
千春さんの方が
悲しそうな顔をしているかもしれない。

その場はしばらく、重い沈黙に包まれた。

「あの、その世界の私と華菜って
 やっぱり似たような関係で、
 そこでも神隠し事件が起きてたんですか?」
綾が沈黙を破る。

他人事じゃないんだよ、綾。
貴女が失踪したって、
千春さんはさっき言っていたよ?

「過去を共有する世界だから、
 同じように人は消えまくってるみたいだった」

「じゃあ、どのみち私は失踪するんですね」

「そう…だよ」
千春さんは視線を落とす。

「…………」

私は自分のことを考えるので精一杯で……

このやりとりを、千秋さんが
探るような目で見ていることに、
気づいていなかった。


4

「柊が姿を消したのは、全てが分かった
 1ヶ月後だった。
 折角おさまってた無茶する癖も、
 自棄を起こして再発してたし、
 死んだんじゃないかと思ってた時期もあった」
千春さんが続ける。

「でも突然、匿名の通報が入った。
 失踪の前兆を知らせる文面と
 それが起こる位置。世界。年代」

「それが柊のやったことだと、
 私らはすぐに分かった」

「……死んだ華菜ちゃんのいた世界と
 限りなく似た並行世界からだったから。
 そりゃー、そうだろうなと予想するぜ」
空山さんは天井を見ている。

「俺たちは仮説を立てた。
 柊は、その世界に留まっているんじゃないかと。
 そこから、通報してきたのではないかと。
 その仮説が正しいと確信するのに
 時間は掛からなかったぜ」

「……同じ世界、年代の失踪者の事ばかり
 匿名で通報されてくるんだもの。
 気づかない方がおかしいわよ」
千秋さんがため息をつく。

「全く、水くさい。
 もちろん、自分が一遍戻ってる間に
 並行世界が増えて、同じ悲劇が繰り返される
 可能性を考えての行動とは分かってるけど
 別に匿名じゃなくてもいいじゃん、って
 みんな思ってた」
千春さんも少し怒っている。

「……すまん」
心配していた仲間達への謝罪は、一言だった。

「いや、いいんだけどさ。
 それで、こういう道を選ぶことにしたんだし」
空山さんが、暗い表情をやめる。

「同時期に、この国の大統領が変わった。
 政策は一変。
 他国も日本の大胆な主張に賛同。
 それで、さっき言ってた
 人類総移住計画が始まるわけでね」
千春さんが言い、

「自分が犠牲になるのが嫌で、
 役目を押しつけあってる
 現状を見て、思いついたんだ。
 そうだ、この貧乏くじを引いて
 柊くんを全面バックアップするなんて
 どうだろう……?
 それって凄く夢のある生き方じゃない?
 ……ってね」
千秋さんが締めた。


「何故、連絡のひとつも
 寄越さない俺にそこまで……」
柊さんが言いかけると、空山さんが柊さんにまた近寄る。

「羨ましかったんだよ、お前が。
 その気になったら、役目に縛られず
 特定の誰かを守ろうとする自由なお前が。
 だから真似してみるのも面白いんじゃないかなって、
 そしたら俺たちも変われるのかな、って思ったんだ」

「…………」
理解できなかったのだろう。
柊さんは、ただ、空山さんを見つめていた。

「ま、お前のそれが恋かどうかは
 置いておくにしてもだな、
 俺たちもお前のように……
 何かに熱心になってみたかったんだよ。
 誰かに執着してみたかった。
 そういうことで、納得しろ」

……あれ?
今、空山さん……変なこと言わなかった?

「わかったか!?」
「あ、ああ……」
空山さんの勢いに押されて、
柊さんは返事をした。

「そうなると、注目すべき点は
 綾ちゃんの失踪と、
 それを捜し彷徨う華菜ちゃんの失踪になるの」
千秋さんが言う。

「だから、年頃の女の子に
 申し訳ないことしてるなー、とは思いつつも……
 ずっと見てた。アンタらふたりを」
千春さんが頭を下げる。

「でも、私たちが死なないように
 特別に注意を払ってくれてたってことですよね?」
綾が明るい声で言った。

「そう……なるよ。うん。
 好意的に取ってくれて助かる」
されていたことに怒らず、
そのまま受け入れる綾に、
千春さんは少し驚いたようだ。

私も驚いている。
ずっと見られていたなんて、
なんだか受け入れがたい。

「特定の人物の監視なんて
 よほどの有名人でもない限り
 勿論、厳罰もんだけど……
 柊の件で調べまくってた俺たちが
 今更怖くなるはずもないし、
 見捨てる人間のことなんか
 相手もどうでも良かったらしくて、
 この3年は自由にやれたよな?」
空山さんが言うと、他のふたりは頷いた。

「それで……一応、
 綾ちゃんの失踪は、こんな形に
 なっちゃったけど食い止められたし、
 華菜ちゃんも死なせずに受け止められたから
 とりあえず一安心かな、って話なの」
千秋さんが言った。

「……で。
 まぁ、ノープランもええとこというか
 そこまでしか考えてなかったといえば
 それまでなんだけども……
 このままふたりを元の時代に帰したら
 どうなるか分からなくて。
 どうしようかー、って悩んでるところなんだ」
千春さんが、はぁ~と大きなため息をつく。

「いい歳して何やってんだよ、って俺も
 思うんだけど、
 ほんと、助けるところまでしか考えて無くて……
 タイムリミットの1年後までには
 どうにかなるよう答えを出すから
 それまでちょっと待っててくれると
 嬉しいな、って話。
 巻き込んだだけなのに、申し訳ないけど」
空山さんもため息をついている。

「嫌だ、帰りたいって言われたらそれまで。
 素直に、元の時代に貴女達を帰すわ。
 私たちの都合でやったことなのだから。
 でも、私たちは貴女達を助けたかった。
 必死だった。それだけは本当なのよ」
千秋さんが言った。

仲間の計画に知らずに巻き込まれていた
柊さんは、ある意味では
私たちと同じくらい混乱しているらしく
一言も話さなかった。


私、これからどうすればいいのかな……。


  • 最終更新:2012-04-11 09:07:58

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