第3章雑談:千春

「おや? 華菜ちゃんじゃない。
 どしたの、私の部屋なんかに来て」

「や、ちょっと千春さんと
 お話したいなぁって」

「いいよ、いいよー。
 私、話すの大好きだからね!」

仲間のこと

柊さんのこと

「……ロリコン一歩手前ですな」

「……はぁ?」

「もし、華菜ちゃんが
 高校2年生ではなく
 小学2年生だったならば!
 年の差は犯罪的!!」

「いや、何言ってるんですか。
 私は高校2年生です。
 どういう“もしも”ですか」

この人の思考回路……どうなってるの?


「人生に“もしも”なんて無い……
 というのは昔の話!
 実際、柊にはその“もしも”が起きてる!!
 出会う華菜ちゃんが中学生だった
 可能性だって、充分あるんだよ!」

「あ、あの……」

「まぁ、アンタも含めて、
 どの華菜ちゃんでも別人だけどね。
 勝手に幻想抱かれる方の身にも
 なって欲しいわな」

う、鋭い……。
千春さん、こういう話好きそうだしなぁ……。

「だが敢えて私も抱こう!
 抱いてはいけない幻想を!!」

「……あの。それは困ります」

「柊はねぇ、不器用すぎる人間で。
 男としてじゃなく、人として。
 あれは例えモテはしても
 一生嫁さんが出来んタイプだね」

「ええと……」

「実は、本当にただ見守ってるつもりなら
 それも良いかなと思ってたんだ。
 だって、柊、ここに帰ってきたら
 私たちと死ぬ方を選ぶでしょ?」

それは、そうかもしれない。

「でもあの日……。
 そう、華菜ちゃんが集団失踪事件に
 巻き込まれそうになった時……
 あいつは華菜ちゃんの前に姿を現した。
 華菜ちゃんが飛ばないよう、庇った」

「だから、私も心を決めた。
 ……別世界の星川 千春には悪いけど
 干渉させてもらうぞ、と」

「……え?」

「私たちが出会ったのは、偶然なんかじゃないよ」


空山さんについて

「器用貧乏だな、ありゃ。
 救いようがない」

「あれで、出来そうな一面の方が
 印象に残るならまだしも、
 駄目な面ばかり印象に残るから
 全く魅力的に見えない」

はっきり言うんだなぁ……。

「頑張っても頑張っても報われない。
 自分の近くには常に、
 自分よりも強い光を放つ星がある。

 私にとっては千秋。
 空山にとっては柊」

「その人を立てて生きていく、ってのも
 なかなか楽しいんだけどね。
 私なんかが、ちゃんと務まってるのかは
 気になるところだけど
 空山はしっかりやってるよ。

 血の繋がりが無い、友達のために
 あんなに必死になれるなんて、すごいと思う」

「ああ、私には……親友はいないんだ。
 友達ばっかり。
 空山は柊のことを
 親友だって言ってたから……
 私の感覚とは……ちょっと、違うのかな」

「今の仲間は、親友じゃないんですか?」

「……うーん、友というより、
 仲間って関係かなぁ……」


千秋さんについて

「華菜ちゃんは、
 人に頼られたことはある?」

「私はあんまり目立たないので、無いです」

「そっか、それは残念だな。
 頼られることの重みは、想像以上だよ。

 だからこそ、安易に頼ってはいけない。
 みんなが頼りにしてるからって
 自分まで一緒に頼りにするのは
 その人の荷物を増やすに等しい行為」

「……千秋はね、頼られすぎるんだよ」

「千春さんは違うんですか?」

「そもそも、私が頼りになりそうに見える?
 私に頼って、
 期待通りの結果が返ってくるように
 見えるかね?」

え、それはちょっと
答えづらい質問だなぁ……。

「人は見た目じゃないと言うけど、
 やっぱり見た目は大事だよ」

「しかし、全く。
 大の大人がよってたかって、
 若い女の子に何でもかんでも
 任せるとはどういうことかね」

「…………。
 まぁ、偉そうなことを言ったけど、
 私のような欠点の方が多い人間が
 誰にも頼らず生きてきたはずもなく。

 人が人に頼らずに
 生きていけるなんて言うのも
 傲慢な幻想だと思う」

「あの、言ってることが矛盾してませんか?」

「白か黒かじゃない。
 灰色で良いって言ってるんだよ。
 つまり、適度に……ってこと。

 全く頼られない人間なんていないし
 逆に、頼ってばかりの人間ってのも
 実はいない」

「大抵の人が片方の側面が強く出るから、
 ある程度の印象は付くけど、
 人は頼ったり頼られたりしながら生きてる。

 だから頼っても良いけど
 頼り過ぎちゃいけないし、
 頼られてもいいけど、
 断ることも考えたっていい」

「千秋はそういう考え方、しない子でさぁ。
 似てるのは見た目だけだね。
 千秋に行きそうなくだらない仕事は、
 本当にくだらなかったら、
 私が勝手に断ってる」

え、そんなことして、いいのかな……。

「断れない人はね、
 ほんとに断れなかったりするんだ。

 だから、私が代わりに断ってあげないとね。
 お節介だと、思われるかもしれないけど……」


綾のこと

「綾ちゃんとは親友なんだってね?
 親友ってどんな感じ?
 やっぱり、楽しい?」

「はい、全部言わなくても私のこと
 分かってくれるし、
 私も綾の考えていることは
 ある程度わかるから、とても話しやすいし、
 一緒にいて楽しいです」

「そっか。
 私には“親友”って呼べる人は
 いないから、ちょっと分からないんだけど」

「全部分かる訳じゃないですよ?
 なんか、気が付いたら仲良くなってて、
 気が付いたら分かるようになってる……」

「綾ちゃんもそう言ってたなぁ。
 本当に仲良しなんだね」

「親友か……。
 私も、欲しかったな」

「親友って、作るものじゃないです。
 できるものなんだと思います」

「うん?」

「だから、千春さんが気づいていないだけで
 親友はいるのかもしれませんよ?」

「良いこと言うねぇ。
 そうだと、いいんだけどな」


私のこと

「うーん、正直、
 “この子きっついなぁ”と思った。

 反応は比較的好意的。
 なのに、態度がきつい。
 アンバランスだね、アンタ」

「わ、悪かったですね!」

「まぁ、私も突如現れた
 不審なクラスメートだったし、
 その分は差し引くけども……
 それでも、ちょっとなぁ」

「そんなに問題ありますか?」

「別に悪いとは思わないよ。
 千秋も小さい頃はそんなとこがあったし。

 友達ができにくいだろうなぁ、とは
 思うけど、そんなの本人の勝手。
 本人がいいなら、それでいい」

「そういえば、柊と似てるな。
 見た目と性格が
 合ってないとことか、特に」

「なんでもそっちに
 持っていかないでください」

「持っていくよー、何が何でもね」

「迷惑です」

「本当に迷惑なら、
 別の態度を取ると、私は思うけどなぁ?」

「本当に迷惑なんです!!」

「あ、もしかして鈍感?
 アンタも鈍感系?」

「どっちかというと
 鋭いって言われますけどっ!」

「ふふん、鋭い人ほど
 自分のことには鈍感なもの」

「…………」

駄目だ、この話題は
続けない方がよさそうだ……。
なんで私の話を聞こうとしないの、この人。


自分のこと

「姉が太陽で妹が月……なんて話は
 たくさんあるけど、逆は少ない」

「そうですか?
 結構ネタになってますよ」

「話のネタじゃなくて、実例。
 物語は妄想にしか見えないよ、私には」

「まぁ、確かに……
 妹より劣ってる自分が許せない、
 果てには恨んで……なんてろくでもない
 ネタが多いですよね」

「そうそれ。考えられない。
 可愛いでしょ妹は」

「私は一人っ子だから分かりません」

「まぁ、姉の数だけ妹の姿が
 あるんだとは思うよ。
 有名な話っていうのは、
 説得力があるから支持されるもの。
 それを否定する気はない」

「でもねぇ、妹に負けて
 悔しくて悔しくてしょうがないのに
 それ以上に可愛くて可愛くてしょうがない。
 それが、私」

「姉妹の上か下かなんて、
 ただの生まれた順番なのに、
 どうして、上の方ができなきゃ
 いけない、ってみんな思うんだろうね?」

「……私も、含めて」

「ま、比べられたくないなら、
 別の仕事をすれば良かったんだけどね。
 別の方面なら
 私も千秋に勝てることはいっぱいあるはず」

「自信ありそうですね?」

「無いよ。
 全部、ただの想像。
 なにより、私にそんな未来はない。
 今、ここにいるんだから」

「人生に“もしも”はあるって
 言ってませんでした?」

「さて、どうだったかな」


他のこと

屋上でのこと

「千春さんは柊さんを捜して、
 学校の屋上に来たんですよね?」

「うーん、逆かな。
 柊が、星川 千春の存在が
 入れ替わったことに気づいたんだろうね」

「校内の生徒に、
 手当たり次第、私のことを
 聞いて回ってる様子だったから
 “その怪しい先生はどこへ行ったの?”って
 聞いてみたら、屋上だってわかって。
 それで、あそこへ行った。

 まさか華菜ちゃんと
 また出会ってるとはねぇ」

柊さん……
別に、私だけに聞いた訳じゃなかったのか……。

「お陰で手間が省けたけど。
 まさか、捜してる当人が
 私に気づかないとは思わなかったね」

「確かに、ぜんっぜん
 気づいてませんでしたね」

「それだけ、私が若く見えたんだろう……と
 前向きに受け取ることもできるけども!

 知り合いに気づかれないって、
 なんか傷つくわー」


柊さんと私のこと

「千春さんって、
 すぐに私と柊さんをふたりきりに
 したがりますよね?」

「だってお似合いなんだもん」

「それは、違う私じゃないですか。
 ちょっと、ひどいです」

「いやね、実は
 適当なことを言ってるつもりも
 あまりないんだよ。

 気づいてないなら、言うけど」

「言わなくて良いです」

「よし、言おう」

なんなの、この人……。

「私は、華菜ちゃんのことは、
 よくは知らないよ?
 でも柊のことは結構知ってる」

「柊はねぇ……」

「とにかく仕事仕事仕事って、
 仕事以外、頭にないんかいっていうぐらい
 仕事しかしないやつでさ!」

「そういう奴ほど、実はアレな趣味が
 あるんじゃないの? と思って
 何回か、部屋に潜入してみたら
 あら不思議。エロ本の1冊も
 エロデータのひとつも出てきやしない。
 あいつ本当に男か!?」

「この静けさは不気味だ!! 不気味すぎる!
 実は違う方に興味が!?
 まさかまさか! とか思ったけど
 どうもそういう訳でもないらしい」

「その点空山の部屋は酷い有様だわ……
 って今は柊の話だった。
 でも本当に空山の部屋も無いわー。
 あれはあれで酷いっつーの」

「男が自分ひとりになった時点で
 自分の部屋に訪問してくるのは
 女だけっていうのを自覚しろっていうね。
 いくら居住区が隔離されてても
 用があったら行くでしょうが」

「とりあえず、部屋の壁に貼ってる
 あのエロいポスターを
 なんとかせぇっつう話!!」

「一遍落書きしてやったけど
 懲りる様子は全くなし。
 なんなのあれ。なんなのあれ。
 犯人は私一択なんだから、
 なんかリアクションあってもよくない?
 それともまさか、千秋もやりかねないとか
 思ってる? あり得ない、それはあり得ない」

「あーっと話がまた逸れた、柊だったね!
 とにかくあいつの頭の中には仕事しかない。
 なんで必要最低限の物しか
 持ってないのっていう」

「個人用のパソコンの中身も新聞ばっかり……
 っていうか後ろめたいことが無いにしても
 パスワードぐらい掛けとけや!!」

「“覗いたぞ、パスぐらい掛けろ”って
 メモ残しといたら
 律儀に“恥ずかしいからやめてくれ”とか
 メール返してきたけども、
 そもそも恥ずかしいもん
 入ってないじゃんアレ!
 どれ? どのデータが恥ずかしかったん!?」

「次見たらパスワード掛かってるし。
 ロック破ってもさらにロックされてるし。
 いや、だから
 どのデータが恥ずかしかったん!?
 全く分からん!!」

「多分あれはただの無関心だ!
 とにかく、何にも関心がない!
 そういうことだ。
 やることがないから、仕事やってるだけ」

「で、仕事にやりがいがあるから
 余計に仕事にハマって
 人生最初の趣味が仕事とかいう
 危なすぎる人間、それが柊 冬紀!」

「……そういうこと」

「あの、ほとんど聞き取れませんでした」

「いや、今のは軽い挨拶って言うか
 久しぶりに新しい人に言いたかっただけで
 本題はこれとは違うんだけどね」

「……はぁ」

心のメモにしっかりと書いておこう。
“千春さんのマシンガントークに注意”。

「とにかく、柊は
 “今の”華菜ちゃんにも
 好意を抱いてるよ、確実にね」

「そんなこと言われても……」

「その証拠に、私が
 屋上でからかったとき、無反応だった」

「……え?」

「私、一回“冬紀さん”って言ったでしょ。
 あれね、柊のNGワード」

「でも、それって
 柊さんの下のお名前ですよね?」

「そう、しかも本名。
 でもあの名前、
 本人は気に入ってないみたいで
 誰かにそう呼ばれると、
 どんな状況でも柊は……キレる」

「き、キレる……?」

「一遍、からかったことがあるんだけどね。
 “僕のこと、『冬紀』って呼ぶのは
  やめてくれないかなぁ”って
 すんごい笑顔で寄ってくるの。
 勿論オーラは氷のように冷たい。
 怖いっつーに。逆に怖いっつーに。
 殺されるかと思ったよ」

「いや、それは大袈裟なんじゃ……」

「一人称が変わるレベルだよ!?
 あの、冗談も言えない男の。
 あれはよっぽどだよ」

「それほどのNGワードに
 気づかずに話を進めるって事は
 それだけ他のことに
 気を取られてたってこと」

「そう、例えば華菜ちゃんとか!」

「……や、あの日は私も
 失踪に巻き込まれそうになった日だし……。
 ちょっと注意されてても
 不思議はないんじゃないでしょうか」

「さっきも言ったけど、
 柊は下の名前を呼ぶと
 “どんな状況でも”キレる。
 例えば時の中へ飛びこむ2秒前とかでも」

いやいや、何を試してるの、この人。
仕事中に何やってるの……っていうか
失敗したら洒落にならないんじゃないのかなぁ。

「あの時の柊は、
 “目の前の”華菜ちゃんのことしか
 考えていなかった。
 これは間違いない」

「そんなこと、無いと思いますけど……」

「私は、あんな目で人を見つめる
 柊を初めて見た。
 ああ、こんな表情持ってたんだ……って」

「本当に華菜ちゃんが迷惑してそうだったら、
 黙ってようと思ってたけど
 実際、こうやって話題にしてくるわけで。
 本当に何も言われたくなかったら
 話題にすることさえ避けるはず」

「ど、どうでしょうか……」

深く考えてなかったなぁ。

「相手に興味が無くなるとね、
 嫌うことすらできなくなる」

「有名な話ですね」

「有名なのは説得力があるから。

 まぁ、そんな訳で
 私から見たらアンタらふたりは
 お似合いカップルなのだ」

「はぁ……そうですか」

反論する気力も無くなってしまった。
ある意味すごいぞ、この人。


偶然ではない?

「私たちが出会ったのは偶然じゃないって、
 それはどういう意味ですか?」

「言ったままの意味。
 私たちは会おうとして出会った。
 ばったり出会った訳じゃない」

……確かに。
確かに、初めて出会ったときの千春さんは
全てを知っているかのような口調だった。

「柊とアンタは、偶然だけどね」

「……穴にはね、種類があるんだ。

 沢山の人を飲み込む
 時空の歪み、“白い穴”と……
 狙った人間をさらう、“黒い穴”」

「私は黒い穴を通ってあの世界に行き、
 黒い穴を使って華菜ちゃんを
 ここに連れてきて、
 やっぱり黒い穴を使って
 柊とほぼ一緒に、ここに帰ってきた」

「あれ? でも柊さんって
 後から帰ってきましたよね?」

「ああ。あれは、時の中でやる作業だから。
 私は柊と一緒に穴に入って、
 ある程度、方向を教えて貰って……
 先に帰ってきた。
 時の中は疲れるからね」

「千秋は、ただ見守ってるだけでいい……
 何か起こったら、
 その時に対処すべきだと
 言っていたけどね。私はそうは思わない。

 事が起こってからでは遅い。
 先手を打つくらいの気持ちじゃないと
 綾ちゃんも、華菜ちゃんも……柊も、
 誰も救えないと思った」

「そんな中途半端なことをするために
 私たちはここに残ったんじゃない」

「じゃあ、綾がさらわれたから、
 私を迎えに来たんですか?」

「そんな呑気じゃないよ、私は。
 綾ちゃんも、さらった。

 知ってるかもしれないけど、
 集団失踪に巻き込まれると
 特定の人物を捜し当てるのは
 不可能に近いんだ」

「だから、そうなる前に……
 自分たちの手の届く範囲に連れてきた」

「そんな……」

「勝手だと、思うだろうね。
 私もそう思う。

 でも、自分の望む未来を手に入れたいなら。
 悲劇が起こるのを、黙って待つくらいなら。

 私は自分で、
 事を動かそうと……そう、考えるよ」

「じゃあ、このことは
 柊さん以外のみんなで決めて……?」

「いや、私と空山だけ。
 千秋は関係ない。

 関係ないだけで、
 もう気づかれてる可能性はあるけど」

「どうして?」

「時間がなかったから。
 綾ちゃんのいる辺りが、
 白い穴に飲まれる兆しに気づいた。
 その時、残された時間は半日だった。

 実は、私には変な勘があってさ。
 レーダーに反応する前に、
 兆しに気づくことがあるの。第六感ってやつ?
 もちろん、外れることもあるよ。

 この勘が働くのは、
 私が機械が苦手なお陰かな、
 千秋にはそういうのは無いらしいんだけど。

 とにかく、
 白い穴に気づいた私は、空山と相談して……
 考えていたことを実行に移すと決めた」

「千秋は、白い穴の中から
 なんとかして綾ちゃんを見つけて
 欲しいって、空山に言ってた。

 でも、実際は……
 白い穴が開く前に、
 綾ちゃんを私がさらった。
 黒い穴を、開けてね。
 それを空山が受け止めたんだよ」

「それで、続いて私も……?
 私が、綾を捜し始めないように?」

「綾ちゃんを失った後の華菜ちゃんは
 必死に綾ちゃんを捜しているようには
 見えなかった。
 だから、見守ろうかと……思ってた。

 でも、華菜ちゃんが
 事件に巻き込まれそうになったとき
 柊がそれを食い止めた」

「柊が、全てのことを
 ただ見守るつもりなら、
 私は、華菜ちゃんまでさらってくる
 つもりはなかった。

 綾ちゃんをしばらく……
 そう、1年くらい匿って
 時間をずらすだけでも
 その後の未来は随分違うだろうから」

「だけど、柊が出てきたのなら話は違う。
 私が綾ちゃんにやったのは
 限りなく自然現象に近づけたけど
 柊は……その時代に干渉して、
 事象を変えた。

 強引な方法で、華菜ちゃんを守った」

「そこまでして、守りたいのなら。
 一生、姿を現さないで
 見守り続けるなんて、
 ただのストーカーじゃん?
 どちらにとっても、害しかないと思わない?」

「だから、私は空山に
 黒い穴の開け方を全部教えて、
 自分を飛ばしてもらった。
 空山がここを離れるわけにはいかないからね。
 
 柊も、私が姿を現せば
 気が変わるんじゃないか、と思った。
 自分から動き出す決心が、
 付くんじゃないかなって」

「で・も!!
 空山のド下手が!!
 変なタイミングで黒い穴を
 開けたせいで!
 こっちはもう大あわてだよ。
 どうなることかと思った」

「ま、空間内での立ち回りに関しては
 プロだから、
 柊の通報が間に合ったこともあって
 ちゃんと華菜ちゃんを
 ここに連れてくることが出来たけどね」


私の世界のこと

「なんていうか、凄いよね」

「……何がですか?
 こっちの世界の方が、
 色々すごいと思いますけど」

「…………妹ブームが」

「は?」

「いや、だから、妹ブーム。
 萌えってやつ?」

「えええ、なんですか、それ」

「知らないの?」

「知ってますけど、そうじゃなくて!
 なんで妹とか萌えとか
 そういう話になるんですか!!」

「いや……千秋は
 どの妹に当てはまるのかなと」

「あの……あれって、
 二次元の話ですよ?
 妄想の妹のことで、
 決して本物の事では……」

「……ツンデレ?」

「いや、だから!!
 自分の妹を当てはめて考える
 ことじゃないですって!」

「今度、ツインテールを
 勧めてみようかな……。
 そしたら完璧だよねぇ」

「私の話、聞いてます!?」


リボンのこと

「え? これ? 頭の?」

「はい」

「うん、千秋とお揃いだよ。
 子供の頃に、そうするって決めたんだ。

 私は左側。千秋は右側」

「何か、意味があるんですか?」

「子供の頃、
 私と千秋は両親を亡くしててね。
 施設で育ったんだよ。

 寂しがりの千秋を
 どうやっても泣きやませることが
 できなくて、私も途方に暮れて」

「そこの院長先生がね、
 泣きやまない千秋に言ったんだ。
 “でもあなたには、
  お姉さんがいるでしょう?”って。

 施設には、本当に
 身寄りの無い子も、沢山いたからね」

「院長先生は私たちに
 お揃いのリボンをくれたけど
 私は、恥ずかしくてつけられなかった。
 だから、千秋に預けてたんだ」

「で、私の方が3年早く
 大人になって施設を出ることになった。
 その時、千秋がこれをくれたの。
 私の、子供最後の日に……さ。

 最初は、恥ずかしいって思ったけど……
 こういうのも、いいかなって」

「鏡で自分の顔を見るとき、
 必ずこのリボンも見える。

 その時、いつも思うよ」

「私は、千秋の姉なんだ……って。
 何があっても、それは変わらないって」


年齢のこと

「人が気にしてること、
 わざわざ聞く!?」

「いえ、25歳って
 全然おばさんじゃないですよ。
 まだお姉さんですよ。

 それに、千春さんはそのまんま
 セーラー服を着ても、
 違和感がないぐらい若く見えるし」

「気になるんよ!!
 誰が何を言おうとも!」

うーん、相当気にしてるなぁ……。

「女なら、歳は絶対に気になる!
 あの世界の星川 千春の家族に
 付き合ってテレビ番組を
 見たりもしてたんだけど、

 20代の女優より、
 30代の女優の方が若く見えたり
 人間って年相応に見えるとは
 限らないじゃん?」

「きっと、自分の自信の問題なんだろね。

 自分に自信がないから老け込む。
 自信が持てたから、また若返る」

「はぁ……」

「まだ若い華菜ちゃんには、
 この悩み、わかりっこないわ!!」

「き、決めつけなくても
 いいじゃないですか!」

でも確かに……わからないかも。


  • 最終更新:2012-04-11 10:06:03

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