第3章雑談:千秋

「うーん? 華菜ちゃん、
 もう休まなくていいのかなー?」

「千秋さんこそ、毎日徹夜で
 大変ですね」

「もう慣れっこだよー。
 それに昼は寝てるしねー」

「でも、昼寝るのと夜寝るのって
 違うんじゃないですか?」

「違うよ~。
 でもそれは、人間が太陽の光を
 浴びていた頃の話なんだな~。
 光の届かない海の底には、
 本当は昼も夜もない」

「あ、そうなんですか」

「何も起こらなければ
 特にすることもないし、
 話があるなら聞くよ?」

「ありがとうございます」

仲間のこと

柊さんのこと

「柊くんはですねぇ、駄目な人です」

「一刀両断ですね」

「自分のペースでしか人生を歩まない、
 仕事の話だけでも
 成果が足りなければ他人の分まで
 自分が補えば問題ないとか考えている
 ほんっとーに駄目な人間です。

 あれでは周囲が甘えるだけだし
 下の世代も育ちません」

「その上、そのせいで
 身体を壊してるんだから
 もう何もかも駄目です」

「でも、顔は格好いいですよね」

「私の好みではないです」

う、うわぁ……。
すっごくバッサリものを言ってる……。
このくらいハッキリ言えたら、
気持ちいいだろうなぁ。

「昔のね、私に似てるかな。
 なんでも、自分が代わりに
 やってあげればいいんだって。
 自分は他の人よりできるんだから、
 やってあげなきゃいけないって」

「そんな考え方こそが、一番、
 相手のことを低く見ているなんて
 考えたこともなかったよ」

「私には姉さんがいる。
 でも、柊くんにはいなかった。

 強いて言うなら、
 貴女がそれに当たるんだと思う。

 だから、例え幻を追っているのだと
 知っていたとしても、
 彼の前から貴女を二度も
 失わせるわけにはいかなかった」

「……大人って勝手だよね。
 ああはなるまい、と子供の頃思っていても、
 気が付いたら同じような大人になってた。

 ……ごめんね」


空山さんについて

「……空山くんはですねぇ、
 非常に無害な人です」

「……無害?」

「人より口数が多くて騒がしい気もするけど、
 私は姉さんで慣れっこだから
 うるさいとは感じないし。

 人並み以上に仕事が出来て
 思いやりがあって
 でも常に人と自分の間に
 分かりやすい線を引いているので
 その線を踏み越えなければ
 安全なんです」

「……線?」

「出会ったばかりの頃、
 ちょっと惚れてました。
 同じ職場ならいいかな、とも思ったけど
 姉さんが
 “悪いことは言わないから様子見しな”と
 言ったので、慎重になって
 損することもないか、と思って
 様子見してたら……」

「……してたら?」

「姉さんが正しかったって
 よくわかったよ。
 人を見抜く目っていうのも大事よねぇ。
 私にはそれが無い」

「は、はぁ……」

「仲間としてなら、いい方じゃないかな。
 雰囲気が暗くなりがちな職場で
 ムードを気にしてくれるところとか、
 他にも色々。

 色々持ってるからこそ、
 相手に恵まれない。彼も大変ねぇ」

完全に他人事だ……。
なんか空山さんが可哀想になってきたぞ。

「まぁ、いつ死ぬか分からないような仕事を
 してるんだし、
 私たちは恋人は持たない方がいいと思うな」


千春さんについて

「姉さんはですねぇ、努力不足の人です」

じ、実の姉に厳しい。
それとも、実の姉だからなのかな?

「いつも勢いだけで、
 何かを始めるときも考え無しだし、
 何かを始めても長く続かないし。

 でもなぜか、姉さんの有益な提案には
 必ず人が集まる。
 姉さんの足りないところを補ってくれる」

「実戦の方が向いてる……ってやつなのかな。
 本番に強いし、
 大きな失敗も最終的にはプラスに変える。

 きっと姉さんは、私の視点では
 見えないところで努力してるんだろうな」

「だから私から見たら、
 ただの努力不足の人です。
 大事なことなので二度言いました」

……これは、相手のことを認めつつも
ちょっと怒って…る?


綾について

「綾ちゃんですか。難しいですね」

「難しいんですか?」

「会って間もないので
 まだ、良く分かっていません」

「そ、そうなんですか?」

「そうなんです。
 私にとっては、彼女はまだ
 一緒に過ごした時間が短すぎるんです」

……な、なんか話しづらい雰囲気に
なっちゃった……。
他の話をした方がいいのかな。


私について

「難しい質問ですねぇ。パスしていいですか」

え、結構ひどいなぁ……。

「…………。
 どうしてもね。
 違う方の華菜ちゃんを連想してしまう。
 だからまだ、こういう話題は
 回避した方が良いと思うの」

「はぁ……」

「そして、こういう話題で
 話をする日は、来ない方がいい」

「……えっ?」

「早く元の世界に
 帰してあげたいな、ってことよ」

「そ、そうですか……」


自分のこと

「冷静沈着。頭脳明晰。……そんなところかな。
 周りの評価は。

 でも、あんなの全部、ただの飾り。

 本当の私は、すぐにうろたえるし
 焦ったら頭は回らないし
 至って普通の人間」

「何より、ここに残るって言った時
 あまり止められなかったことが……
 私の存在価値を示してる」

「姉さんや空山くんは、
 別れを告げる友達も多かった。
 いなくなってしまうことを、
 悲しむ人も多かった。

 私には、それがあまりいない……」

「私はきっと、
 私らしく生きてきた代わりに……
 大事な何かを
 置き去りにしたまま生きてきたんだろうな」

「でも、逆に言えば、
 そんな私にも少しはいた、って事なんだよね。
 その人達に、感謝してる」 


他のこと

ずっと見ていたこと

「うー、ごめんね。
 でも、見ちゃいけないとこは
 見てないし!」

「……そうだと思うんですが
 やっぱり、
 落ち着かないっていうか……」

「大丈夫!!
 見えるのは映像だけで、
 音声は聞こえないし!!
 何でもかんでも知ってる訳じゃないよ」

「そんなこと言われても……」

「それにしても、
 華菜ちゃんもBLとかいけるんだねぇ」

「ちょ!!
 ある意味、一番見ちゃ
 いけないところじゃないですか!!」

「ふふふ、こっちの世界にも
 そういう娯楽ってあるけど……知りたい?」

「け、結構ですっ!!」

「まぁ、飢えてきたら
 私の部屋においで。見せてあげるよ?」

「飢えませんから!! 大丈夫です!」

「ホントかな~、大丈夫かな?」

「大丈夫ですっ!!」

わぁぁぁ、なんか弱味を握られた気分だ~!!
どうしよう……。


綾には先に、事情を話していたこと

「あれはですねぇ、混乱を避けるためです。
 ふたりが同時に真実を知ったら、
 きっと困るだろうなぁと」

「でも……知らない世界に来たばかりで
 それだけでも大変なのに……
 自分のせいで友達が死ぬなんて話を
 聞かされるなんて、
 あんまりだと思います。

 それに、嘘までついて」

「……華菜ちゃんは、優しいんだね」

「友達だから、当たり前です。
 優しいとかではありません」

「うーん、ごめんね。
 それでも…私は、混乱を避ける方が
 いいと思ってて。

 ちょっと、独りよがりだったかな」

「いえ、もういいんですけど。
 綾も気にしてないみたいでしたし」

「……ごめんね」


人さらいのこと

「私たちが最初に出会ったとき、
 言ってましたよね?

 “私が人さらいだったらどうするの”って」

「ああ~、言いましたねぇ」

「人さらいって、結局なんなんですか?」

「そのまんまの意味だよ。
 意図的に、特定の人物を
 その世界から連れ去る。
 これを人さらいと呼ばないなら
 何をそう呼ぶのかな?」

「う、うーん」

「ただねぇ、“存在”っていうのは
 人が思ってるほど
 曖昧じゃなかったみたいだよ」

「……え?」

「親を消せば、子供も消える……
 そう、思うでしょう?」

「はい」

「消えない人もいるんだな、これが。
 消えちゃう人と消えない人の違いは、
 まだわからないけど。

 だから、歴史を変えるっていうのは
 そんな簡単な事じゃないんだよ」

「そうなんですか……」

「あと、人さらいといえばもうひとつ。
 気になることがあるんですよねぇ」

「あぁ……私と綾が、
 なんだかおかしいって話ですよね?」

「それは勿論そうなんだけど、
 あの後、もう一度よーく調べてみたら
 姉さんもさらわれたっぽいんですね。

 これは何を意味するんでしょう?」

「うーん、難しいですね」

千秋さん、敬語になってる……。
本当は……気づいてるんじゃないかな。


失踪者のこと

「実は、気になってる事があるんです」

「何かな?」

「私の世界で、神隠し事件は……
 解決の手がかりが、
 全く無い、ってことになってます。

 もちろん、生き残りも、
 帰ってきた人も……いないって」

「それは嘘」

「はっきり言いますね!?」

「私たちや、他の世界の人達が
 どのくらい、華菜ちゃんの世界の人を
 帰せているかは分からないけれど……

 帰ってきた人がいないっていうのは
 誰かが何かを隠してるってことじゃないかな」

「誰か?」

「そう。
 すっごーく偉い、誰か。
 その人が本当に偉いのかは分からないけど
 国では偉いと思われてる……」

「……え、まさか」

「そう、そのまさか。
 どんな世界でも、どの国でも。
 偉い人のやることは、似たり寄ったり」

そういうのって……
なんか、許せないな……。


リボンのこと

「ああ、この青いやつのことかな?」

「はい」

「これは、姉さんと
 お揃いのリボンなんです。
 姉妹仲良しのしるし」

「……それだけですか?」

「…………」

あ、なんかごめんなさい

「ああ、華菜ちゃんのせいじゃないの」

教えて欲しいな……

「……中途半端な態度を
 取っている時点で、
 私も、誰かに聞いて欲しいのかもしれないね」




「……昔、ほんの一時期、
 姉さんと別れなきゃいけない時があったの。

 子供じゃないんだから、
 当たり前なんだけど……。

 でも、姉さんはすぐ人の中に
 入っていって、
 私だと見失ってしまいそうな気がして」

「次に会うとき、
 ちゃんと見つけられるか、不安で。

 それで……このリボンを、渡したんだ」

「姉さん、ちゃんと
 つけてくれてた……。
 今も、そうしてくれてる……。

 これがあるから、私は安心できる」

「でも、絆って物じゃないと思います」

「……理屈では、そうだけど。
 でも、不安なことは不安なものなの。
 そういう時……物は、役立ってくれるよ」


年齢のこと

「なんでそれを聞くんですかぁぁ!!」

「や、気にするような年齢では……」

「気になるんですー!!」

「実は、気にしてないんじゃ
 ないですか?」

「気になるものは、
 気になるのです~!!

 人の心の傷に触れないで
 欲しいですねー!!」

……絶対、本当は気にしてないな…………。

もしかして……
千春さんの真似、してるのかな?


  • 最終更新:2012-04-11 10:05:32

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