第3章雑談:柊

「……俺に何か用か?」

「用事っていうか、
 ちょっとお話したいなって」

「俺などと話して、
 面白いことなど無いと思うが」

「それは私が決めることなので、
 柊さんは気にしなくて大丈夫です」

私だって、この人と
楽しくお話できる気なんて……しないよ。

でもそれは、相手を知ろうとしない
理由にはならない……。


仲間のこと

空山さんのこと

「……茂か? いい奴だと思う。
 成り行きでずっと、俺の相棒だった。
 俺は“ノリ”が悪いらしいからな、
 奴と一緒にいて丁度ぐらいだと
 以前、千春が言っていた」

「それって、柊さんがいない間は
 すごくバランスが悪かったってことに
 なりませんか?」

「…………。
 考えたこともなかったな。
 確かに、そうかもしれん」


千春さんのこと

「千春か……。騒がしいな、あいつは。
 悪いやつではないのだろう、と
 分かっていても
 俺の隣にはいつも茂がいたからな、
 最初は少し苦手に思っていた。
 今は…悪くない、と思っている」

「え、でも空山さんのことは
 いい人だって思っているんでしょう?」

「ただの慣れだ。
 最初はやかましくてかなわなかった。
 だが、行動を共にする機会が多ければ
 苦手な奴の良い部分も見えてくる。
 そして……苦手ではなくなる」

「あ、なるほど……」


千秋さんのこと

「千秋? 彼女は優秀だ。
 一度、彼女と組んで
 仕事に当たったことがあるが、
 あれほど早く問題を解決できたのは、
 今のところあの時だけだ」


綾のこと

「元気な人だな。
 俺はずっとここを離れていたから
 最近、仲間達がどうしていたのかは
 知らないが……
 チームが明るくなったように思う」

「それに、彼女の持っている明るさは
 茂や千春のそれとは明らかに違う。
 ……自然にやっているから、
 押しつけがましくなく……
 それでいて人を和ませる。

 誰にでも出来ることではないだろうな」

「ああ、だが……
 空山には注意しろと言っておくといい。

 彼女、この間の話の時も
 話をしている千春ではなく
 空山の方を見ていた。
 手遅れにならなければいいが」

「……手遅れ?」

っていうか、綾ってそんな方、見てたっけ?

「空山が……アタックを掛けると決めたら
 悲劇が起こるぞ。
 必ず別れるカップルが誕生する」

「……どうして分かるんですか?」

「付き合うまでは良いらしい。
 だが、いざ付き合ってみると10日も保たない。
 最長記録が10日だ」

「…はぁ、そうなんですか……」

そんなに短いんだったら、
逆に、放っておいても大丈夫なんじゃない?
付き合い始めてから10日で出来る事って、
ほとんど無いと思うな。


私のこと

「…………!」

「美しい、と思うが」

「私がですか?
 それとも、別の私のことですか?」

「もちろん、貴女がだ。
 …まるで花のようにな」

うわぁ。
センスが古い上に、
ただの模範解答じゃん、それ。

「ただの高校生に、
 花のような美しさが備わるとは
 思えませんけどー?」

「……謙遜しているのか」

「だって、花のようだなんて
 言われたって……」

「ユリ――……はやめた方がいいか。

 貴女にはアリッサムのような、
 親しみの湧く可愛らしさがある。

 確かに、“美しい”とは少し違うかもしれない。
 だが、俺のように他者に興味を持てない人間が
 貴女のような慎ましやかな人に心惹かれる。
 それは、貴女が美しいからではないのか?」

“ありっさむ”って何の花だろ?

「どうした?」

「いえ、“ありっさむ”って
 どんな花だったかなーって。
 ……日本にある花なんですか?」

「あの世界の柊の知人が育てていた。
 それに、その人の家の庭以外でも
 よく見かけたから、日本にある花だ」

「……そういえば、“庭なずな”とも
 いうのだったか?」

「…どっちにしても想像できないです」

「きっと、見てはいるが記憶と一致しないのだろう。
 では、違う花に例えようか。
 そうだな……。
 ……桔梗も、そうだったか」

「いえ、私、花に詳しくないので。
 聞いたことはあるけど、
 どの花のことだが……。
 確かにそれ、日本にありそうですけど」

うわぁ、まさかの花攻めだよ。
こうくるとは思わなかったよ。
この性格で、なんでお花なの!?

「ならば、コスモスは?」

「さすがにそのくらいは知ってますよ!
 学校の花壇に咲いてましたし!!」

いきなりグレード下げすぎ!!

「す、すまない」

「いえ……私の方こそ。
 つ、つい」

「貴女にも、
 そういう気の強い一面があるのか。
 …………」

あ、どうせまた、違う私のことを
考えてるんでしょ。全く。

「だが、アリッサムだな」

「……あの…。
 ユリも含めて、
 さっきまで言ってた花になんか
 共通点、あるんですか?」

「花言葉の“美しい、清楚だ”と
 いった部分が一致している。
 あと、どの花も白いものがある」

「へーぇ、お詳しいんですねぇ」

「……怒っているのか?」

「男の人がそんなに
 お花に詳しいのは意外だなぁ~って。
 誰に教えてもらったのかなぁって
 ちょっと思っただけです」

しまった、今のは失言かも。

「……俺と花は似合わない、か。
 無理もないな。
 俺も、あの時代に割り込むまで
 花のことなど知らなかった。

 割り込んだら割り込んだで、
 最初は……違う貴女がいつも傍にいたから
 花など見ていなかった」

「俺が、花に興味を持ったのは……
 あの時代に割り込んでしまった二度目の時……
 つまり、貴女のいた世界に行ってからだ」

「へ?」

うそ。
私、てっきり……
違う私が花でも好きだったのかと。
ああ、でも……
違うって言っても、私には違いないから
やっぱり花は見ないのかな。

「この世界で花を目にする機会は滅多にない。
 特別な行事の時や大金持ちの家でなら
 見ることができるが……
 俺のような者には、そんな機会など」

「あの世界の柊の家は
 園芸を趣味とする者の家に挟まれているんだ。
 だから聞かなくても色々と教えてくれた」

その環境って、花を好きになれなかったら……。
いやいや、変なことを考えるのはよそう。
他人の家のことだし。

「とにかく、アリッサムは貴女のいた場所で
 よく見かける花だ。
 帰ったら、誰かに聞いてみるといい」

「ユリじゃなくていいんですか?」

「……良くないものを
 想像するのではないのか?」

「……あぁ。
 そういう意味ですか」

「それに……
 これからのことを思うと縁起も悪い」

確かに、日本人はあまり気にしないけど
ユリは海外では葬儀に使うから不吉、って
言う人もいるし、
それをネタにした話も多いし、
何より……私が死ぬかも知れないのなら、
縁起が悪いのか。

「あの、もしかして
 他のみんなの花も連想できますか?」

「…………。
 やめておこう」

「どうしてですか?」

「俺の例えた花の中に、
 貴女の好きな花があったら困る」

「…………」

この人は、何がしたいんだろう。
私にどうして欲しいのだろう?
珍しく、たくさん
話してくれたなぁって思ったけど……
よく見たら、あまり楽しそうに見えない。
なんか……寂しそう。

やっぱり、迷惑……なのかな。


自分のこと

「俺のこと……か?

 俺が、俺自身を正しく評価できるとは
 思えないが」

「そ、そうですか……」

とりつく島もない……。
自分のことは、話したくないのかな……。


他のこと

出会った時のこと

「ああ、あの屋上だな」

「違うでしょう!!
 何でそうなるんですか」

「驚いたな、まだ覚えていたのか」

「二度も忘れたりしません!」

「……いや。
 本当の最初は、貴女の記憶に
 残りづらいはずだからな。
 だから、覚えていないかと……」

「…記憶に残りづらい?」

「あのままだと、時に飲まれ
 どこか遠くへと飛ばされただろう。
 それは俺が防いだ。
 もう中井さんはいなかったからな。
 俺も必死だった」

そうか。
あれが時の中だったんだ。
真っ白で、何もない場所……。

「時の中のことは、記憶に残りづらいんですか?」

「時の中の記憶は、慣れていない者には
 夢のように曖昧なものとして残ることが多い。
 たとえ思い出しても、また忘れてしまう。

 だが、身体が触れてしまうと
 相手の記憶に残ってしまうことがある。
 だから俺は、普段もできるだけ相手に
 触れぬようにして帰すようにしていた。」

「そして、俺と貴女が出会ってしまったら
 どんな形であれ、
 貴女に危険が及ぶだろう。

 だから俺は、貴女に
 指一本触れていないつもりだった」

「その割には、自分から会いに来ましたよね?」

「あれは、千春が……
 千春が入れ替わっていたからだ。
 本当に驚いた」

「千春に時の境目を超える体力が
 あるとは思えない。
 それなのに都合良く、俺のいる世界に、
 しかも俺の近くに来ている……。
 ……絶対に何かあると思った」

「でも、千春さんに気づいてませんでしたよね?」

「ああ。
 だが“星川 千春”には注意を払っていた。
 万が一ということはあるからな。
 実際、あった。
 そして噂で聞いたのだ。
 最近、星川の様子がおかしいと……。
 それで、捜していた」

「……そうなんですか」

「そして気づいた、
 中井さんがまだ帰ってきていないことに」

「…………?」

「だが俺は、そのことで千春と争う気はない」

「確かに……
 ここの方が、貴女を守りやすいかもしれない。
 しかし千春が入れ替わっていることに
 もっと早く気づいていれば……
 あんな中途半端なことはしなかったんだがな」

「なんですか?」

「人々が消えていく惨状を見て、
 貴女は怯えていた。
 どうせ出会うのなら……
 もっと傍に寄って、見えないようにすべきだった。
 そして、貴女の記憶に残るようにすべきだったな」

あ、あれよりも近く?
それって……。

「どうかしたか?」

「なんでもないです!」

それって、映画とかドラマの
怖いシーンでよくある……
女性を抱きしめて、怖いものを
見せないように庇うっていう……アレだよね?

良かった、されてなくて。

そんなことされてたら、
きっと私、叶わないって分かってても
無理な願いを抱かずにはいられなかったよ。

……そういう、ものだもの。


屋上でのこと

「屋上で、色々ありましたよね」

「そうだな」

「柊さんと千春さんに、
 ほぼ同時に出会ったり
 初対面同然の人に変な話を聞かされたり」

「すまなかった」

「いいですよ、嘘じゃなかったし」

「…………」

「でも、気になることがあります。
 どうして、別れようとしたとき……
 引き留めたんですか?」

「それは……」

「…………」

答えられないって事は、やっぱり……?

「もしかして、別の私は
 貴方のことを、“柊さん”って
 呼んでたんですか?」

「…………」

やっぱり。
やっぱりそうなんだ。

分かってるつもりだったけど……
改めて確認すると……辛い、な。


“穴”

「そういえば、屋上で
 穴がどうとか……って話になったとき
 柊さんも、そこそこ乗り気でしたよね」

「……千春が、この世界に
 中井さんがいる、と断言していると
 取っても良い話し方をしていた。

 それに千春の言うことならば
 他人の害になる話ではないはず……
 そう思った」

「信じているんですね」

「千春は時に、規則や法則に縛られない
 提案をする。
 そういった提案をしてくる場合……
 大抵、他人のために動いていることが多い」

「穴は、技術のない世界の方から
 開けるのは困難だ。
 出来ないわけではないが、
 思った場所に飛べるとは限らない」

「じゃあ、どうやるんですか?」

「……知りたいのか?」

「そりゃ、あんな風に
 びっくりさせられたら……
 何がどうなっていたのか、
 知りたいですよ」

「そうか……。

 穴は、こちら側から開ける。
 場所とタイミングは、通信で決めて
 こちら側の人間が開けてくれるのを待つ。

 そして、自分の近くに開いた穴が
 思った通りの穴ならば……
 飛び込めばいい」

「普通は、他者を巻き込まないよう
 広い場所に開けるものだ。
 それを、技術を持たない
 個人の部屋に開くなんて……
 あれでは人さらいと同じやり方だ。

 少々、強引すぎると思うが」

「あれって、千春さんなんですよね?」

「いや、千春ではなく
 千春と組んでやった者の仕業だろう。

 先程も言ったように、
 技術のない側の世界から開けるのは
 少し難しいからな。

 だから千春も、そして俺もうろたえた。
 ……通報が間に合って…良かった」


違う私のこと

「……貴女とあの人は違う。
 語る必要は無いと思うが」
「……でも、ほら、
 全くの別人でもないって話ですし」

「似ていない、とだけ言っておく」
「でも、5年後はわかりませんよ?」

「いや……同じにはならないと、思う」

「…………」

なんか、無理に
話題を避けられてる気がするなぁ。


仲間の呼び方のこと

「柊さんって、
 仲間のこと、みんな下の名前で呼ぶんですね」

「……千春に、そうするよう言われた。
 女性にそれはない、と思ったのだが
 そのくらいされないと
 自分が信用されているのかさえ
 分からないから、そうして欲しいと頼まれた」

あの人だったら、言いそうだなぁ。

「……空山さんは?」

「奴にも自分から言われた。
 “長いこと組んでいるのに、
  よそよそしい”と。
 あいつと千春は、性別は違うが
 似たタイプなんだろうな」


体調のこと

「……もう、問題ないが」

「本当に?」

「ああ」

「……でも、体調が良さそうには
 見えないんですけど。
 話し方も……なんていうか、その……
 静かですし。
 疲れているんじゃないですか?」

「そんなことはない。
 俺はいつもこんなものだ」
「う~ん……」


気にしない

「なら、いいんです」


気になる

「あ! やっぱり熱い!!」

「……貴女の体温が低いのではないか?」

「いいえ、私の平熱は36.5℃、
 低いなんてことはありません」

「…………!」

「駄目でしょう?
 治ってないのに治ったふりをしたら」

「……そう、かもしれないな。
 悪かった」

あれ、意外と素直だ。
なんか、拍子抜け……って
私は何を期待していたんだろう?

物足りないと思う時点で、
何かは期待しちゃってたってことだよね……
うーん。

「気遣いに感謝する。
 だが俺は……本当に大丈夫だ」

「…………」
こういう人って、なんて言ってあげれば
ちゃんと休むんだろ?


私の世界のこと

「……あの世界の日本は、美しいな」

「環境問題とか、綺麗じゃない問題を
 たくさん抱えてますけど」

「ああ、だが…美しい」

「それに、心の病気とか、
 見えない問題がいっぱいあって……
 綺麗なのは、見た目だけです」

「……そうなのかもしれない。
 だが、それでも俺は……
 あの光景を
 美しいと感じずにはいられない。

 海の底しか知らなかった俺には……」

「そういえば、空がどうとか
 言ってましたよね?」

「この世界の空は、赤黒く、
 禍々しい色しか見せてくれない。
 だが、あの世界の空は違う。

 俺はあの世界で、
 同じ空を見たことがない。
 いつ見上げても、それは別の空だ」

空のこと、好きそうだなぁ……。


この世界のこと

「貴女がこの世界について、
 無理に知る必要は無いと思うが」

「そんなことはありません、
 今、私はここにいるじゃないですか」

「それも……そうか」

「外にだけは絶対に出るな。
 専用の装備なしで外へ出れば
 命はない」

「それ以前に、
 海の底から脱出する方法を
 思い浮かびません」

「そうか……。
 なら、気にする必要はない。
 だが気を付けなければならないのは
 外出のことだけではない。

 千秋達に聞いたんだが
 この施設自体も使う場所以外は
 メンテナンスしていないらしいからな。
 どこが崩れてくるかわからん」

「はい、知らない場所には行かないように
 注意します」

「……昔は。
 綺麗な場所だったんだ、ここも」

「……え?」

「本物ではないが、空もあった。
 街も、学校も、娯楽施設も……
 そう、過去の地上が
 この海底で再現されていた」

「わぁ……素敵ですね」

そっか。民間人だって、
前はいたんだもんね。
やっぱり、ここは未来っぽい雰囲気がするなぁ。

「だが、無理に作った偽物には違いない。
 だから今、こうなっている……」


自分の名前のこと

「……親にもらったものを
 気に入らないと感じるのは
 申し訳ないと感じる。

 だが……」

「“柊”という姓に合わせて
 語呂だけで“冬紀”と付けられたと
 聞かされれば
 良い気分はしないだろう」

「つまり、
 それが格好いいって思った……
 そういうことですよね?」

「ああ。
 しかし、このように寒そうな名前、
 どうかと思うのだが……」

うーん。
柊さんの態度が何だかクールなのって
名前のせいなのか、その話のせいで
ひねくれちゃっただけなのか
分からないぞ。


花のこと

「花、お好きなんですね」

「ああ、あの世界に行ってからだが」

「それまでにも、
 何度か別の世界に行ったことは
 あったんでしょう?」

「俺のミスで……な。
 だがそういう場合はすぐに戻る。
 周囲を見ている暇など無い」

「じゃあ、ここ以外の世界に
 初めて長く留まったんですね」

「そうだ」

「自然のままに生きているものが
 あれほどまでに強いものだとは
 知らなかった。

 花はこちらの世界でも
 再現はされていたが……

 本物の太陽の光を浴びて
 育った植物には敵わないな」

「昔は、花などどうでもよかった。
 あんな、散るために作られているような
 儚いだけのものは
 作っている時点で、植物の命を
 軽んじていると思っていた」

「だが、それは俺の間違いだった。
 この世界の花屋は……
 あれに憧れていたんだろう。

 いつか必ず散ってしまうが……
 それでも強く美しく咲く、花に」

「元々、興味の無かった俺が
 そう感じるほどなのだ。
 好きな者があの光景を見たら……
 夢のような世界だと感じるのだろうな」


  • 最終更新:2012-04-11 10:07:01

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