第3章雑談:空山

「どうした、こんなところまで来て」
「あの、今……お時間あいてますか?」

「基本的に、俺は暇だ」
「そ、そうなんですか……」

「何かあったら動くのが、
 俺の仕事だからな。
 呼ばれなかったら仕事もない!」

 そうだ、俺の部屋に来るかい?」

「ええっ!?」

「こんなところで立ち話もなんだし」

「え、でも……」

「冗談だよ、
 食堂にでも行こうか。
 どうせ、どこへ行っても誰もいないさ。
 ……俺たちの仲間以外はね」


仲間のこと

柊さんのこと

「ふたりの女性に惚れられるとは
 あいつもモテるねぇ」

「……ふたり?」

「別の君と、今の君。
 最低でもふたりの女性の心を射止めてる」

「いえ、私は……。
 それにあの人も……」

「あいつな、意外とモテないんだ。
 厳密に言うと、最初はモテる。
 ……モテるんだが、
 性格があまりにもつまらないから、
 女性達が去っていくんだよ。
 まったく、勿体ないよなぁ」

「空山さんと柊さんは、仲良しなんですよね?」

「おう、まぁな。
 というか、あいつは人付き合いが
 下手すぎるから、
 周りが合わせてやんねーと
 何も始まらないわけだが、
 俺はたまたま相性が良かったんだと」

「付き合いが長すぎて、今では親友だ。
 ああいう感じの奴と仲良くなれるなんて
 俺も思ってなかったよ」

「チームワークが大事そうな仕事なのに、
 人付き合いが苦手……って、
 なんだか大変そうですね」

「だろ?
 はっはっは、
 俺がいたことに感謝して欲しいぜ」

「でも、仲良しの割には
 名字で呼ぶんですね」

「……華菜ちゃん。
 死にたくなければ…
 あいつの名前をフルネームでは
 絶対に呼ぶな。絶対だ」

「し、死にたくなかったらって、
 そんな大袈裟な……」

「俺はあの凍てつくような視線に
 未だに怯えている……」

「怯えてるって……」

「そう、奴があまりにも愛想が悪いから
 ちょっと下の名前で呼んでみたんだ……。
 “俺達、ちゃんと仲良くやってるよな?”
 ぐらいの……軽い、気持ちで」

「だが、あの時」

「“そう呼ぶのはやめてくれないか?”
 ……って言いながら
 俺に近づいてくるあいつは
 恐ろしい笑みを浮かべていた……」

「笑ってたのに、恐ろしい?」

「あれは友好の笑みじゃない……
 殺意のある奴の笑みだ!!」

「そうなんでしょうか?」

「間違いねぇ!!
 目が笑ってねーんだもん!
 絶対怒ってたよあれは!
 怒りを通り越して殺意になってたよ!
 なんなんだよあれ!」

「……まぁ、そういうことで
 奴のことは名字でしか呼ばない。
 相手の嫌がることをしても
 仲良くなるきっかけにはならないしな」

「華菜ちゃんも……気を付けろよ?」

「は、はい……?」
そんなに怖いことなのかなぁ?


千春さんのこと

「はるちゃんは良い子だよー。
 時々、本気のツッコミで鼻血が出るけど」

……どういうツッコミだろう。
どうやったら鼻血が?

「それに、俺とも気が合うしね」

「確かにそれは、そんな気がします」

「何より、いいお姉さんなんだ。
 彼女がここにいるのは、ちあちゃんの為だよ」

「え、そうなんですか?」

「ちあちゃんは賢くて冷静な頼れる人……
 っていうのは、
 半分は周りが作った幻想だ。
 
 確かに彼女は頼りになる。
 でも、実はとても寂しがりで怖がりだ」

「ちあちゃんが
 実力を発揮できるのは、
 はるちゃんがここに居るからなんだよ」

「じゃあ、千春さんは
 そこにいるだけで、
 仕事してるってことになりますね」

「そういうこと。
 話が分かるね、君。

 口さがない人達は、
 はるちゃんとちあちゃんを比べて
 色々な噂をする」

「だから、以前……
 そういうのって、やっぱり気になるのか
 聞いてみたことがあるんだけど

 “妹が天才なら、私は秀才になればいい”
 ……だってさ」


千秋さんのこと

「ちあちゃんは可愛いよー。
 なにより、仕事が出来るってのは大きい」

「出来る女性って格好いいですよね」

「そうそう。
 はるちゃんのミスも全部無かったことにしてるし」

「へぇ、お姉さんのフォローまでして
 えらいですね」

「フォローってレベルじゃない
 完璧で華麗なフォローだよ。
 はるちゃん、
 実は試験の成績も基準以下だし
 身体能力も並の女性と同じくらいだから
 本来はこんなところには
 いられない筈なんだけど」

「……へ?」

「試験の結果が送られる前に
 全部、データを改竄しちゃってね。
 はるちゃんは
 データベース上では
 トップクラスのエリートなんだよ」

「えぇぇっ!?
 それって、駄目なんじゃないですか?」

「本当に駄目なら、ここにはいないはずさ。
 それこそ、仕事についていけなくてさ。
 最初こそ駄目だったけど
 はるちゃんは決して出来ない人でもない」

「それに、ちあちゃんのやったことに
 上の奴が誰も気づいてないなら、
 本当の馬鹿しかいないってことになる」

「うーん、そういうものでしょうか」

「ま、ちあちゃんが出来るから
 手放さなくて良い間は手放したく
 なかっただけで、
 きっと気づかれてはいたんだろうね。
 いつからなのかは、知らないけど」

「……えっ?」

「じゃなきゃ、こんなところで
 見捨てられる側の人間にはなっていないよ。
 本当に必要と思われているなら
 どんな手を使ってでも
 向こうの世界に連れて行かれたはずさ」

「は、はぁ……」

なんか怖い話になって来たなぁ。

「そんなちあちゃんの弱点、教えようか?」

「……え?」

「日本語だよ。つまり国語」

「……はぁ?」

「苦手って言っても、
 彼女の場合、普通の人と同じくらいは
 できるんだけど……
 あれほど出来る人が
 そこだけ平均値ってのは、おかしいだろ?」

「な、なるほど……」

「秘密だぜ」


綾のこと

「いやー、いいねぇ10代は!」

「な、何考えてるんですか!!」

「そんなことを言ってる君の方が、
 変なことを考えてるんじゃない?」

「うぐ……」

「あの子が、時に飲まれそうになっていた時
 俺はいつものように声を掛けた。

 でも、何の迷いもなく
 俺の腕の中に飛び込んできたのは、
 あの子が初めてだ」

「え、えーっと?」

「初対面の相手に“こっちだ!”って言われて、
 怖がらずにそいつに近寄ることが
 できるかい?」

「うーん、難しいと思います」

「あの子にはそれがなかった。
 最初から、信じてくれたんだ」

「確かに、そういうタイプです。綾は」

「……その素直さが
 危ういところでもある……」

「え?」

「……気もするけどね」

「はぁ……」


私のこと

「本当は、もっと近くに寄って
 抱きしめたいけど」

「……えぇ!?」

「みんなにバレると、
 ただじゃすまないから、やめておこう。

 君も不用心だねぇ、
 俺みたいな奴をひとりで訪れてくるとは」

「それは……」

「綾ちゃんみたいに、
 自衛術を保っているなら別だけど
 君は誰に対してもノーガードだ。
 ……俺の見る限りね」

「そ、そうですか……?
 私って、馴染みにくいタイプですけど…」

「人に馴染みやすいってことはねぇ、
 相手の性格を自分の中で分類して
 その相手に合った手段で接する術を
 知っているということ。

 悪く言えば、表裏があるってことさ」

「でも、そのくらい出来ないと
 友達も作れないんじゃ……」

「そう。
 だから君には綾ちゃんしかいなかった!」

「人が一番気にしてることに
 触れないでくださいっ!!」

「……でも、君はともかく、綾ちゃんは?
 いくらでも友達のいるはずの彼女が、
 どうして君を一番の親友に選んだと思う?」

「……え?」

「それだけ、君が他とは違う、
 彼女を飽きさせない
 良い友達だったってことなんじゃないか?」


自分のこと

「俺のこと、ねぇ。
 明るくて頼れるお兄さん? イケメン?
 天才?」

「適当なこと、言ってませんか?」

「自分のことを
 真面目に話すのは恥ずかしいからな。
 まぁ、俺のこの性格は
 半分は作りもんだ。わざとやってる。

 じゃないと、柊の暗さと
 釣り合わないからな」

「長いことこのノリでやってると
 身体に染みついちゃって
 段々、この性格が
 俺の本体になりつつあるんだが」

「それって問題あるんじゃないですか?」

「や、まぁ……みんなもこっちに
 慣れてるだろうし
 それは、もういいんだけど……。

 俺にも譲りたくない座が
 ひとつだけある」

「なんですか?」

「イケメン枠だ!!」

「……は?」

「俺は元々はクラスの中心、
 女子にもモテる人気者だったんだ。

 っていうか俺みたいなタイプの方が
 ウケて当然だろ、ウケて」

「なのに柊の奴が飛び級でクラスに
 入ってきてから、どうだ!
 女子共はみんな手のひら帰したように
 柊、柊って」

「あんな愛想のない奴のどこが良いんだよ!
 喋らない上にリアクションもしないなら、
 ただの人形じゃねーか!!
 人形がモテるなんて認めねーぞ俺は!!」

「つーか、昔は“格好いい奴”は
 みんなお喋りだったじゃないか!
 いつから、あんな無言の奴が
 ウケるようになったんだよ。
 あと20年早く生まれていれば
 世界中の女性は俺のものだったのに!!
 俺の華やかな人生を返せ、柊のドアホ!!」

「あ、あの……」

「あっ、ごめん。
 喋りすぎる男は、最近はモテないよね」

「…………。
 ………… …………」

「…………」

「いや、今更なにやっても手遅れですよ!」

「この手遅れ感が俺の魅力なんだよ」

「は、はぁ……」

……心のメモ帳に書いておこう。
空山さんのマシンガントークに注意、っと。


他のこと

ありがとうございました

「それは、本当に俺に言うことなのかな?」

「でも、直接、私を助けてくれたのは
 空山さんなんでしょう?」

「そうだよ。
 でも、柊がいたからこそだ。
 あいつの送ってきた
 正確な情報が無かったら
 ちゃんと受け止められたかどうか」

「そうなんですか……」

「でも、女性から折角
 お礼を言ってもらったんだ。
 俺も、素直にそれを受け取ろう」

「……どういたしまして!」


ここに来たとき、見えた場所

「ああ、もしかして何か見たのかい?」

「はい……。
 とりあえず行ってみたんですけど、
 やっぱり何をする場所か
 わからなくて」

「こっちの世界に割り込む時、
 基地の中が見えたんだろうな」

「……という感じの場所だったんですけど」


「そういう場所だと……
 ハンガーとか、エネルギー変換室とかかな」

「へぇ、そうなんですか」

「俺達の生命線と言ってもいい、
 変換室はともかく……
 ハンガーの方へは、もう行っちゃ駄目だよ」

「え?」

「ハンガーの辺りは
 メンテナンスが行き届いてないんだ。
 ちあちゃんの計算だと
 メンテ無しでも一番外の扉は
 あと3年は保つらしいから
 多分、心配は要らないんだけど……」

「万が一、最後の扉の所まで
 浸水してきたら、
 すぐに隔離しないといけないからね」

「隔離扉を通り損ねたら……
 死ぬよ?」

う、うわぁ。
もう行かないようにしよう……。


綾を受け止めた時のこと

「白い穴と黒い穴って、知ってるかな」

ええと、どうだっけ……。

「白い穴は沢山の人を飲む。
 黒い穴は、個人を飲むものなんだけどね。

 空間の仲の印象も、そのまんま。
 白い穴に飛び込めば真っ白な空間に出るし
 黒い穴に飛び込めば暗闇の中を彷徨う」

「綾ちゃんは特殊な例で
 黒い穴が開いた後に
 白い穴が彼女の近くに開いたんだ。
 だから、受け止める前に
 白い空間に彼女が飲まれそうになった」

「だから俺は呼んだよ、彼女を。
 そうでないと、見失ってしまうからね」

「彼女は、俺の声にすぐ反応して……
 迷わず、まっすぐに飛び込んできた」

「あれは彼女の良いところだ。
 できれば、ずっと良いところの
 ままであって欲しいな」


花のこと

「うん、綺麗だよね。
 花には詳しくないけど
 昔の人が女性を花に例えた気持ちなら
 わかるつもりだよ」

「柊さん、詳しそうでしたよ?」

「何!?
 俺が知ってる柊は、
 そんな気の利く奴じゃないぞ!?」

「野郎……いつの間に
 そんな知識を……。

 これじゃあ、俺は引き離される
 一方じゃないか」

「ひ、引き離される……?」

「ああ、こっちの話」

「どっちがモテるとか、
 そういう話ですか?」

「な、なんでわかるんだ!?
 まさか、俺の心が読め……」

「そんなことできません。
 でも、貴方の顔を見れば想像はつきます」


自分の名前のこと

「空、山、茂……。
 どれも俺に無縁な言葉だ。
 嫌ではないけど、変わった名前だよな」

「はぁ……」

「昔は、海底でも……
 過去の空を再現するシステムが
 稼働していた。
 だから、俺も偽物の空なら知ってる」

「植物もあった。
 だが、あれは手入れをしないと
 すぐに死んでしまう」

「華菜ちゃん、君のいた世界では
 空は見上げればそこにあるものだし、
 植物も野生のものなら
 放っておいても、勝手に育つんだろう?」

「ええ、大抵は」

「それって……どんなものなのかな」

「空山さん……」

「自分の名前に込められたものの意味を
 知る機会が俺にはなかった。
 柊と違って、俺はこれでも慎重だからな。
 他の世界に放り出されたことは、ない」

「出来るものなら……。
 見てみたかった、ような気もするな……」


“最強”ってなんですか?

「え!? なんだい、突然」

「そんなこと言って
 ごまかそうとしたって駄目です、
 私、覚えてますよ。

 集団失踪事件を食い止めて、
 帰ってきたときの空山さん……
 私のこと、“最強”って言ってました」

「なんですか、最強って。
 ああいうときは、
 もっと……こう…その……
 別の言い方をしませんか?」

「あ、もしかして“最高だ”って
 言って欲しかったってことかな」

「そ、そうではないんですけど。
 違和感があるというか」

「俺の中では、華菜ちゃんは
 “最高”より“最強”の方が
 似合うと思うけどな。

 誰が何をしても
 変わろうともしない柊を
 短期間で変えて」

「それ、違う私じゃないですか」

「ああ、あの時は悪かった。
 ……でも、俺は間違ったことを
 言ったとは思わない。

 やっぱり、柊は君の影響で
 また変わってきているよ」

「……そうなんですか?」

「ああ」


星川姉妹の姉妹喧嘩

「……うん? それがどうかしたかい?」

「やっぱり、慣れてるんですね」

「そりゃあ、ね」

「なんか、仲裁も慣れてる感じで」

「あれはね、俺が慣れてるんじゃない。
 ふたりとも、本当は分かってるけど……
 引っ込みが付かなくて、
 喧嘩が続いてしまうだけ。
 俺が止めに入るのを待ってるだけだよ。
 だから俺も、あっさり入り込める」

「そ、そうなんですか……」

「あんな美人姉妹に待たれるなんて
 俺もラッキーだよなぁ!」

  • 最終更新:2012-04-11 10:06:30

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