第5章雑談:綾

「あれ?
 なんで華菜がこんなところに来るの?」

「綾こそ。ここで何やってるの?」

「私は、ゲートの掃除だよ。
 整備は空山さんが
 もう済ませてるけど
 中があんまり綺麗じゃなくってさぁ……」

「あ、掃除してたんだ。
 手伝おうか?」

「……ごめん。
 触っちゃいけないとこも、
 けっこうあってさ。
 でも、掃除しながら
 話を聞くことはできるよ?」

「私ってとんでもない機械音痴だもんね。
 うっかり変なところ触ると
 何が起こるかわからないよね」

「いや、そこまで酷いことは
 思ってないけど」

「じゃあ、私……
 機械がない床でも拭いとくよ」

「そう? じゃあ、お願い」


ここの皆さんのこと

柊さんのこと

「最近、調子よさそうだよね。
 うん、なにより」
「そうだね」

「それにしても、あの人は
 スマートに飛ぶんだねぇ」
「……え?」

「私も時に飛び込むんだから、
 参考にする為に、他の人のデータも
 見てみたんだ。
 なんていうか、柊さんには
 迷いってものが無いみたいだね」
「そ、そうなんだ……」

「空山さんが
 “そいつだけは参考にしようと思うな。
  特別な奴だ”……って言ってた。
 元気だったら、本当に向いてたんだろうね」

「私さぁ……時々、思うんだ。
 本当に目指しちゃいけないのかな? って。
 目標にしてみるくらい、いいと思わない?」
「うーん、でも適性とかもあるだろうし」

「そうそれ。
 そういう壁を突き破って、
 実は私にだって出来るんだぞ! って
 証明したいな」

「綾がそういう気持ちでいたら、
 いつか出来ちゃうかもしれないよ?」

「そうだね。
 このことは空山さんには内緒にして、
 でもいつか……柊さんのように飛んでみせて、
 びっくりさせたいな」

「面白そうな目標だね」


空山さんのこと

「教えるの上手い人だよ。びっくりしちゃった」

「そうなんだ……」

「人は見かけによらないねぇ」
「そうだね」

「……あ。
 もしかして、違う話題を期待してる?」
「え……!?
 そ、そんなこと、無いよ……」

「ふふふー、そういう話は、内緒」
「…………」

「というのもつまんないから、
 ちょっとだけ、ばらしちゃおうかな。

 あの人の部屋は、すごく散らかってるよ。
 ついうっかり、癖で片づけちゃった」
「も、もう部屋に上がり込んだんだ……?」

「中井 綾18歳!
 若さが武器!! 勢いで攻めます!!」
「……そうですか」

「というのは冗談で、
 どんな部屋の人なのか
 知りたかっただけなんだけどね」
「そうなの?」

「うん」
「で、その感想は?」

「それは、本当に内緒」
「えー、つまんない」

「内緒ったら内緒~」


千春さんのこと

「最近、仲良くなれた気がする」
「本当? それは良かった」

「マシンガントーク合戦とか、最高だね」
「なにそれ?」

嫌な予感しか、しないんだけど……。

「お互いに凄い勢いで話して
 相手の話をどのくらい聞いてたか
 後で確認するの」
「へ、変な対決だね……」

「録音しておいて、
 記憶が正しいかどうかも確認する」
「妙に本気だね?」

「で、最近はマシンガントークに
 ならなくなってきた」
「……どういう意味?」

「マシンガントークってさ。
 片方が一方的に話しまくって終わりだったり
 双方が話が噛み合ってもいないのに
 そのまま話しまくってたりするじゃん?

 そうならなくなってきたんだ」

「私と千春さんは、超高速で会話が出来る。
 すごいスキルでしょ」

「……確かに凄いけど、
 その速さを私たちに求めないでね……?」

「うん、大丈夫。
 ただの遊びだから」


千秋さんのこと

「千秋さんからは、愛を感じる」
「……うん、優しい人だよね」

「それもあるんだけど……
 やっぱり、時に飛び込む時、かな」
「……え?」

「カウントとか、ボタンの押し方とか。
 なんか、やりやすいの」
「そ、そうなんだ……」

「何回か、柊さんに
 飛ばしてもらった時があったじゃん?」
「ああ、あったね」

「普通に上手いんだけど、
 それ以上にはならないんだよね」
「…………?」

「あの人は本当の仕事は飛ぶ方で、
 飛ばす方ではないから
 それで良いんだと思うけど……
 やっぱり、お世話になるなら
 千秋さんみたいな人の方がいいな」

「そっかぁ……」

「華菜もいつか、私を飛ばしてみる?」
「空山さんを飛ばせなかった綾が、
 それを私に言う~?」

「いやいやいや。
 私には向いてなかっただけで、
 案外、華菜にはできるかもよ?」


私のこと

「昔も今も、私のそばには華菜がいる。
 それだけは、変わらない……」
「うん、うん」

「でも、未来はどうだろうね?」
「……え?」

「……ごめん、今のは忘れて」
「…綾?」

「なんでも、ない……」


自分のこと

「私、時々怖くなるんだ。
 自分は、悪い人間なんじゃないか……って」
「……え?」

「昔から、そういう気分に
 なることはあった。
 誰かの世話をするとき、
 私が手を抜けば……どうなると思う?」
「どう、って言われても……」

「少なくとも、
 真剣に相手をした時に比べれば
 良い結果は残せないと思う」
「それは、そうだろうね」

「人の行方に……命に触れるようになってから
 もっと怖くなってきた。
 この手で、何でも出来てしまうんだ……って」
「なんでも……は大袈裟じゃないかな」

「そんな気がするくらい、
 大きなものってこと。人の命は」
「なるほど……」

「私みたいな小娘が
 本当に関わってもいいのかな……
 他人の命に」
「でも、綾に助けられた人は
 そのお陰で行方不明にならずに
 済んでるんじゃない」

「そうなんだけどさ。
 なんだか、怖いんだよね……。
 何なんだろうな……この気持ち」
「……綾…」


他のこと

ごめんね

「華菜は何も悪くないよ」
「……そんなこと、ない。
 …………」

私は……一番大切な秘密を
未だに綾に話せずにいる。

「どうせ、私に何か隠し事を
 してること、悩んでるんでしょ?
 本当に、内緒にしていていいのか…って」
「…………!」

「わかるよ、そのくらい。
 でも、隠し事のない人なんて、いないよ?」
「でも……でも!」

「華菜の隠し事が、
 私のためにしてることだって
 気持ちが伝わってくる。

 私のことを、思ってくれているのが分かる。
 私には、それで充分」

「どうして……」

「私はね。ずっと、頼られてばかりだった。
 私に頼ればどうにかしてくれる……
 そんなことを思って
 私に近づいてくる友達が多かったんだ」

「あ、綾……?」

「そういう人達と一緒にいるのも、楽しいよ?
 楽しいけど……寂しいんだ。
 私は……誰にも頼ることが出来ない……。

 でも、華菜は違う。
 華菜は自分が困ってる時、
 自分から私に相談してきたことって……
 あんまりないでしょ?」

「そ、そういえば……」

綾に気づかれて、
成り行きで相談に乗ってもらったことは
たくさんあった。

でも、自分から綾に
相談しに行ったことは……
あまり、なかった。

「それがね、私にはとても頼もしかった。
 私に頼らないでくれる華菜が
 とても頼もしかった。

 この人になら、頼られたいと思った」

「綾……」

「だから……いいんだ。
 そんな華菜が私のために
 何かを隠しているのなら。
 きっとそれは、私を大切に
 思ってくれているってことだろうから」

「でも……!」

「人のために隠し事をするのって、
 けっこう疲れることだからさ。
 
 いつか、隠さなくてもよくなった時……
 どんな気持ちで隠していたのか、教えて欲しいな。

 その時……私はまた、
 華菜の役に立ちたいよ。
 華菜に頼られたいと思うよ」

「綾…。綾……!! でも、私……」

「私にとって、華菜は頼もしい存在。
 だから、そんなに気にしないで。
 私たち……親友じゃない」

私は、綾を裏切っている。
でも、それは今の時点では
どうしようもないこと。

全てがうまく行けば、綾の言うとおり……
きっと私は、彼女に隠し事をしていたことを
後ろめたいと感じるのだろう。

今、以上に。

「頼りにしてるよ、華菜」

綾の微笑みは、私の緊張をほぐしてくれた。
このまま進んで良いのだと、思わせてくれた……。
私はまた、綾に甘えてしまった……。

「……ありがとう…」

私は、良い親友を持った。
心から、そう思う……。


誕生日

「そういえば、私たちって
 知らない間に18歳になったんだよねぇ」
「うん。この間気づいた」

「千春さんが
 “うっかりしてたぁぁぁ!”とか、
 叫んでたもんね」
「そう、その時に」

「サプライズの誕生パーティを
 企画してたらしいね、あの人」
「忙しいのに……
 そういうところに
 気を配ってくれるだけでも嬉しいよね」

「まぁ、冷静に考えると……
 2交代制の私たちが
 全員揃って誕生パーティをやるなんて
 あり得ない訳だけど」
「だよね。誰かの睡眠時間が潰れちゃう」

「交代の時、ほんの少しだけど、
 全員が揃う……
 あの瞬間、私、好きだな」
「…………!」

綾も、そう思ってたんだ。

「……華菜は?」
「私も思ってた。だいぶ、前から」

「そっか。だいぶ前かー。
 私は、あの時間の貴重さに気づいたのは
 最近なんだ。

 それまでは“ここはこういう場所”としか
 考えていなくて」

「無理もないんじゃないかな」

「華菜はいつも冷静だよね。
 うーん、交代の時間を使って
 他の誰かの誕生日に、ミニパーティをやるとか、
 そういうのはどうだろ。
 今までの感謝の気持ちも込めて」

「千春さんが思いつかなかったとは
 思えないけど……それ」

「ああ、千春さんが私たちの
 誕生日を忘れてたのは、
 企画してるうちに肝心の当日が
 過ぎちゃってた、ってだけらしいよ」

「そうなんだ!?」

「意外と可愛いよね、あの人」


空山さんとのこと

「うーん、内緒」
「えぇー、つまんない」

「というのは冗談で……いい人だよ。
 まさか、9歳も年上の人と
 お付き合いをすることになるなんてなぁ」

「すごい年齢差だよね」

「まぁ、相手の方が意外とシャイで
 あんまり恋人らしいことを
 してなかったりするけど」

「“恋人らしいこと”?」

「あれぇ? それを私に言わせるのぉ?」

「って、ちょ!!
 駄目じゃん、それ!」

「駄目でもないでしょー、18歳なら。
 こんな基地じゃまともなデートもできないし
 わりとすぐそういう展開になるのかなー、と
 思ったりもしたんだけど」

「ちょっとちょっと。
 綾はそういうのを、期待してるわけ?」

「華菜はそういうの、
 期待したことがないの?

 初恋なのは案外私の方で、
 実は何度か
 男子とお付き合いしたことのある華菜が?」

「そういうことを、
 期待していい年齢じゃなかったし!!」

「あー、そういう訳かー。
 だから、半年後には大抵別れてたんだ。
 告白された側なら、振るのにも抵抗無いしね」

「あるよ、抵抗は!!
 相手に悪いな、って思うし……。
 でも、相手と合ってないと思い続けながら
 付き合い続けるのも良くないし……」

「それで振る、と」

「それとなく振られたこともあるけどね。
 “じゃあ、これが最後で”って感じに」

「しかし、華菜の恋って回転早いよねぇ。
 3人だっけ? ……5人だっけ?」
「……4人だよ!!」

「全部、相手からコクられたんだよね?」
「う、うん……」


「そして半年以上は保たない」
「べ、別に私じゃなくても
 半年以上保ってる人って少ないよ!?」

「……だよねぇ。
 大人になったら、考え方も変わるのかな。
 “何年付き合っている彼氏がいます”
 ……って文頭の相談、けっこう見かけるけど…。
 ああいうのって、実感無いよね」

……自分のことを話してるのに、
半分他人事になってる……。
結局、空山さんとどうなりたいのよ、綾は。

「あ、今……華菜がえっちなこと
 考えてる」

「考えてないし!!」

「ま、空山さんと私のことは
 今は内緒だよ、内緒。
 もうちょっと落ち着いたら、教えてあげる」

「う~……」


最近のこと

「終わりが近い……って感じだね」
「そう? 私は、全然感じないなぁ」

「私が、時の中に飛び込むように
 なったからかな?
 なんとなく、感じる。
 空間が少しずつ、壊れていくのが」

「そうなんだ……。
 なんか、怖いな……」

「壊れなければいいのにね。
 何も、無ければいいのに」

「……そうだよね。
 崩壊なんて、計算ミスでした……
 って、誰かから報告が来ないかなぁとか……
 考えちゃう日もあるよ」

「千秋さんって、最近も
 秘密の通信してる?」

「……秘密の通信?」

「って、それ自体に気づいてないのか!!」

「……ごめん。
 なんか、時々
 違うことをやってるのは
 分かるんだけど、内容までは」

「いや、私も内容は知らないんだけど。
 どうも、新世界の本部との
 定期連絡っぽいね」

「あ、そうだったんだ……」

「終わらないで欲しいな……。
 終わらせたくない……」

「綾、さっきから同じことばかり言ってる」

「華菜も思うでしょ!?」

「……思うよ。
 思うけど…思うだけじゃ、どうにもならない。
 私たちに出来ることなんて……無い」

「…………。
 そう、だよね……ごめん」

…………。
安心して。
今はまだ言えないけど……
私が、終わらせたりはしないから。

必ず、助けるから。


  • 最終更新:2012-04-11 10:02:39

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